会社が「社員に求めること」を定義することで、管理職は自信を持てる
最後に、管理職に対する会社・人事部門による支援をまとめた。
1. 社員に「何を求めるか」の再定義
何よりも、会社全体として「人材に何を求めるか」をあらためて明確に定義し直す必要がある。この前提が曖昧なままだと、管理職は「どこまで指導してよいのか」「どこから体調管理と捉えるべきか」といった線引きができず、現場での判断に迷いが生じる。
前編でも述べたように、若手社員は「早く一人前に成長しなければ」という不安や危機感を抱えている。一方で、理不尽な叱責や過度な厳しさは受け入れたくないという感覚も同時に持っている。
こうした若手の心理を踏まえたうえで、会社としては「どのように成長してもらうか」という道筋を明確に示すことが求められる。それによって管理職も、自信を持って一貫した指導を行え、部下の理解や納得感も得られやすくなる。
これは、会社にとってきわめて重要なマネジメント基盤の再構築といえる。
2. 若手教育のノウハウを社内で循環させる
そして、人事部門としては、自社内での成功事例、特に若手社員の育成に関する優れた取り組みを収集・整理し、それを社内で共有することが有効である。また、管理職同士でのコミュニケーションの場を増やし、ノウハウの共有や相互に相談しやすい機会の創出も必要である。
さらに、若手育成が得意な管理職に講師を依頼して、社内セミナーを実施することも強く推奨される。単に優しいのではなく、若手の将来を見据えて教育できるような管理職は、どの会社にも必ずいる。彼らは、ただ優しいのではなく、時に厳しく、かつその社員の将来像を見据えて適切なフィードバックをしている。
同じ会社の社員だからこそ、組織文化や働き方の傾向を理解したうえで教育を行っており、そのノウハウには大きな価値がある。外部講師では話せないような悩みや社内の事情にも寄り添える点で、非常に実践的な学びの場となる。
また、社内セミナーを通じて「どこに指導のポイントがあるのか」が可視化されることで、他部門への展開や共通言語の形成にもつながっていく。講師を務める管理職の所属部門には、一時的に業務量を調整してもらうなどの配慮は必要だが、将来的な人材育成への投資としては十分に意義がある。

マネジメントの難化は、戦略的に向き合う課題
近年、管理職は「罰ゲーム」とさえ揶揄されるようになり、マネジメントはかつてないほど難しくなっている。部下との関係性は繊細さを増し、家庭やプライベートでも負担は重く、同じ立場同士で支え合う機会も乏しい。
こうした複合的な困難の中で、管理職には「業務」「育成」「配慮」のすべてをバランスよく果たすことが求められている。だが、それは個人の努力だけで担えるものではない。
マネジメントの難化は、時代の変化とともに起きている構造的な問題であり、組織として戦略的に向き合うべき課題である。