1. 事件の概要
本件は、死亡した甲野一郎(以下「X」)の相続人である原告らが、Xの勤務先であった被告(以下「Y県」)に対し、Y県の安全配慮義務違反によりXが自殺したと主張して、損害賠償を請求した事案です。
(1)当事者等
Xは、公立大学を卒業後、平成17年4月にY県職員として採用され、複数の部署を経て、平成26年4月にA事務局A1課A2係(主査)に配属され、平成28年4月にB部B1課B2係(主査)に異動し、死亡時まで同課に勤務していました。
(2)Xのうつ病発症および通院
Xは、平成27年3月下旬または同年4月上旬に、うつ病またはうつ病エピソード(以下、まとめて「うつ病」)を発症しました。
Xは、同月11日、仕事に能力がついていかず処理できない、毎日の仕事が苦しいことによるうつ症状、気分の落ち込み、意欲の減退があるなどと訴えて、精神科医院であるCクリニック(以下、単に「クリニック」)を受診し、その後、同月中に2回、平成28年4月から平成29年4月までの間に15回、クリニックに通院しました。
(3)時間外労働の状況
①Xがうつ病を発症してクリニックを受診するまでの6ヵ月間
- 平成26年10月13日から同年11月11日:28時間9分
- 平成26年11月12日から同年12月11日:62時間7分
- 平成26年12月12日から平成27年1月10日:35時間16分
- 平成27年1月11日から同年2月9日:50時間57分
- 平成27年2月10日から同年3月11日:64時間32分
- 平成27年3月12日から同年4月10日:154時間41分
②Xが死亡するまでの6ヵ月間
- 平成28年11月22日から同年12月21日:89時間20分
- 平成28年12月22日から平成29年1月20日:44時間25分
- 平成29年1月21日から同年2月19日:81時間22分
- 平成29年2月20日から同年3月21日:66時間27分
- 平成29年3月22日から同年4月20日:87時間40分
- 平成29年4月21日から同年5月20日:84時間35分
(4)Xの自殺
Xは、平成29年5月21日午前0時頃、自宅において自殺(縊首による窒息死)しました。
(5)公務災害認定および同決定に基づく補償等
地方公務員災害補償基金奈良県支部長は、令和元年5月17日、Xの窒息死が公務上の災害であると認め、令和2年3月27日、以下の補償の支給決定をしました。