ツッコみどころの多い服務規程を見直そう
次に岩﨑氏が取り上げたのは、服務規程である。「多くの企業の服務規程は、ツッコミどころが満載だ」と指摘する岩﨑氏。その理由は、“柱書き”と呼ばれる箇条書き以外の前置き部分が、「従業員は、次の各号の行為は行ってはならない」と否定形で書かれていることに起因するという。このように柱書きが否定形になっていると、それ以降の各条文が混乱を招きやすくなる。
たとえば、「(1)職務の権限を越えて専断的なことを行うこと」となっていたら、どうだろうか。最初の柱書きで「行ってはならない」といっているのに、「行うこと」と命令形でいわれたら、結局やって良いのか悪いのか、分からない。あるいは、「(7)その他軽犯罪法第1条に抵触する行為をしないこと」はどうだろう。抵触する行為をしないことを行ってはならないだなんて、抵触する行為をしろといっているようにも取れる。
このように、柱書きが否定形になっていたら要注意。禁止事項なのか遵守事項なのか瞬時に判断できなくなるほか、規定ミスをしている可能性もある。だからといって、柱書きを「しなければならない」という遵守規定に変えれば安心というわけでもない。
たとえば、「従業員は、服務に精励し、会社秩序を守るため、次の各号を遵守しなければならない」とした後に、「(2)常に品位を保ち、会社の名誉を害し信用を傷つけるような行為をしないこと」「(3)会社内で酒気を帯びて勤務しないこと」と禁止事項が続いたら、結局、従業員として何をすべきなのかが分からないし、“会社内がダメでも会社外ならよいのか”といった抜け道を探す人が出てくる可能性もある。また、従業員が問題を起こすたびに「〜してはならない」と条文が付け足されていくので、条文全体に脈絡がなく読みづらくなってしまうのだ。
「死人テスト」で、分かりやすい規定をつくれる
ではどうすれば分かりやすい条文になるのだろうか。そのヒントとして岩﨑氏が紹介したのが、1965年に行動分析学の研究者オージャン・リンズレーによって開発された「死人テスト」だ。
死人テストとは、「死んだ人でもできる行動は目標行動として設定するべきではない」という原則に基づいており、この死人テストを通過すれば、生きている人間による能動的な行動であることが示される。
| 良くない例(死人テストを通過しない) | 望ましい例(死人テストを通過する) |
|---|---|
| ドアをバタンバタンと閉めないこと →そもそも死人はドアを閉められないので、死人でもこの約束を守れる |
ドアを静かに閉めること →生きている人間にしかできない |
| 廊下を走らないこと →そもそも死人は廊下を走れないので、死人でもこの約束は守れる |
廊下を静かに歩くこと →生きている人間にしかできない |
| 友達と口論しないこと →そもそも死人は友達と口論できないので、死人でもこの約束は守れる |
友達と穏やかにコミュニケーションを取ること →生きている人間にしかできない |
| 宿題を忘れないこと →そもそも死人は宿題をできないので、死人でもこの約束は守れる |
毎日予定通りに宿題を完成させること →生きている人間にしかできない |
| テレビを見過ぎないこと →そもそも死人はテレビを見ないので、死人でもこの約束を守れる |
一日に決まった時間だけテレビを見ること →生きている人間にしかできない |
| 食事中に飲み物をこぼさないこと →そもそも死人は食事をしないので、死人でもこの約束は守れる |
飲み物をゆっくりと静かに飲むこと →生きている人間にしかできない |
つまり、死人テストを通過した行動だけで服務規程を書き直せば、望ましい行動が明示され、ルールの趣旨が伝わりやすくなる。
岩﨑氏は生成AIにこの考え方を組み込むことで、古い服務規程を添削し、今の時代にあったものに置き換え、さらにその新しい含む規定に基づいたクレドの作成も可能だと、デモンストレーションを交えて解説した。

