2. 裁判所の判断
(1)割増賃金計算の基礎となる賃金単価の額について
①1ヵ月の所定労働時間について
本件就業規則が存在するところ、これについては、作成の経緯が定かでなく、そもそも従業員に周知されたか否かも定かでない。
こうしたことなどからすれば、これを直ちに有効なものとして認めることはできない。
そこで、1ヵ月の所定労働時間については、週40時間の法定労働時間を前提にして算定すると、173.80時間となる(40時間 ÷ 7日 × 365日 ÷ 12ヵ月 = 173.80。ただし、小数第3位以下は切り捨て)。
②割増賃金の基礎となる賃金の額
Xらには、基本給のほか、セリ人手当、皆勤手当、早出手当および所定時間外賃金の合計額が毎月支払われていた。
セリ人手当および皆勤手当については、その性質上、除外賃金に当たるとは認められない。
また、早出手当および所定時間外賃金については、そもそも、これらの手当等の支給条件が明確でなく、明確区分性および対価性があるとは認められない。
そこで、Xらに支給額された合計額をもって、割増賃金の基礎となる賃金の額とすべきである。
(2)Xらの各実労働時間について
①始業時刻および終業時刻について
Xらの主張する始業時刻および終業時刻については、基本的には、おおよその記憶に基づく概括的な主張となっている。
一方で、Y社において始業時間および終業時間の管理を目的とするタイムカード等が全く採用されていなかった。
こうしたことも鑑みれば、客観的な証拠に反し、または明らかに不合理な内容を含むといった場合には格別そうでない限りは、概括的な主張に沿って認定することも許容され得るとするのが相当である。
これを本件について見るに、Xらの業務は、午前7時に開始されるセリに向けての準備から始まり、セリを経て、商品を販売先に配達する準備や在庫管理を行い、販売先への配達業務を行うという流れになっている。
これら業務の流れからすれば、Xらの主張する始業時刻および終業時刻は明らかに不合理な内容を含んでいるとは認められず、また、請求期間全体として見た場合において、客観的な証拠に反するとまでは認められない。
そうすると、始業時刻および終業時刻については、Xらの主張どおり認めるのが相当である。
②休憩時間について
Xらは、1日につき1時間の休憩時間を主張している。
これを超えて長時間の休憩をとることが常態化していた事実は認めるに足りないことに鑑みれば、Xらの主張どおり認めるのが相当である。