コンディション把握の観点
個人のコンディションを可視化するうえで重要なのは、「何を測るか」だけでなく、「どう測るか」の視点を整理することです。
コンディションは1つの数字で表現できるほど単純なものではなく、複数の側面を組み合わせることで初めてその輪郭が見えてきます。人事の実務上では、以下の3つの視点を押さえておくと、情報を捉えやすくなります。
1. 心理(主観)
パルスサーベイなどを通じて、従業員本人の心理を直接捉える視点です。やりがいや業務負荷、周囲への信頼感といった主観的な感覚は、最も早く変化が観測できる領域でもあります。
ここで重要なのは、「事実がどうであるか」ではなく「本人がどう感じているか」をそのまま受け止めることです。たとえ実際の業務量が周囲と同じであっても、本人が「負荷が高い」と感じていれば、それは“負荷が高い状態”を示すサインとして捉えるべきです。
主観データはノイズも多く、数字としての精密さは限定的です。しかしその一方で、変化が最も早く現れる領域でもあります。
短い設問を高い頻度で実施するパルスサーベイや、定期的なエンゲージメントサーベイなどは、この“本人の主観”をキャッチアップする代表的な手段です。心理的な揺れは小さな兆しとして現れることが多く、早期に気づけるかどうかが、その後の対応の成否を左右することもあります。
2. 行動(客観)
勤怠データや休暇の取得状況、出社・在宅の傾向、Slackなどのコミュニケーションツールでの発言量、プロジェクト参加状況など、行動に現れる変化を捉える視点です。主観的なデータだけでは補足しきれないコンディションも、行動の変化と組み合わせることで実態をより明確に把握できるようになります。
たとえば、「残業時間が増えている」「発言量が減っている」といった変化は、パフォーマンス低下やエネルギー不足のサインとなることも少なくありません。
3. 対話(文脈)
主観的あるいは客観的な変化が起こったとき、それを補い、背景にある文脈を捉えるための視点です。多くの場合、この文脈を把握するためには対話が不可欠です。1on1や面談を通じて、「なぜその状態になっているのか」という背景を明らかにします。
数字では捉えきれない要因を引き出すことができるため、コンディション観測結果の意味付けにおいて欠かせないプロセスです。また、対話の設計によっては、データ収集にとどまらず、支援そのものに直結させることも可能です。
心理・行動・対話は、それぞれ単独では不十分であり、それだけで個人のコンディションを把握することはできません。これらを組み合わせることで、ようやく実態に迫ることができます。
また、「サーベイだけ」「勤怠だけ」など、どれか1つの視点だけに依存すると、状況を誤って判断するリスクがあります。一方で、実務上はすべてを網羅的に測る必要があるわけでもありません。組織の課題とフェーズに合わせて、どの視点を重視するかを明確にしておくことが重要です。

