日本企業に多い“100点設計”。「整備止まり」の落とし穴
スキル情報をもとに、採用や人材配置などタレントマネジメントの意思決定を行う「スキルベース人材マネジメント」に取り組む企業は年々増えています。
一方で、時間をかけてスキル定義や運用設計を行ったにもかかわらず、現場では依然としてスキル情報が十分に活用されず、過去の経験や周囲の評判に基づく判断が続いているケースも少なくありません。多くの企業が、こうした理想と実態のギャップに直面しています。
スキル定義や運用の仕組みは構築されているものの、実務上の意思決定に十分に活用されていない状態を、本稿では「整備止まり」と呼びます。
「整備止まり」に陥る企業に共通して見られるのが、スキル定義やタクソノミー整理を、最初から自社にとって最適な完成形として設計しようとする進め方です。業務特性や人材要件の違いをていねいに取り入れようと、現場部門、人事、経営など立場の異なる関係者の視点を幅広く反映させることで、スキルの粒度は細かくなり、個社独自の項目も増えていきます。
その結果、管理すべきスキルが複雑化し、スキル管理負荷と粒度の標準化をどう両立させるかを巡って、関係者間の合意形成にも多くの時間を要することになります。
最終的には、「適切なスキル定義やスキル管理方法をつくること」自体が目的化し、スキルをどのようにタレントマネジメントの意思決定に活用するのかという、本来最も議論すべきテーマが後回しにされてしまいます。
では、なぜ多くの企業でスキル設計が「整備止まり」に陥り、実務での活用につながらないのでしょうか。次章では、その背景にあるスキル設計とタレントマネジメントの意思決定との関係性に踏み込み、この問題をより具体的に捉えていきます。
スキルはあくまでも「判断材料の1つ」
スキルベース人材マネジメントが機能しない背景には、スキルを万能な判断基準として扱ってしまう誤解があります。スキル情報を整備すれば、人材配置や育成の是非を客観的に判断できる――この前提に立つと、設計段階で過度な完成度や網羅性を求めてしまいます。
しかし本来、スキルは意思決定を支える「判断材料の1つ」に過ぎません。人材の配置や登用は、スキルだけでなく、経験や評価、志向性などを含めた総合判断によって行われるものです。重要なのは、スキルをどの判断で、どの水準まで使うのかを見極めることです。
そして、この「適切な粒度」や「使える範囲」は、机上の検討だけで決め切れるものではありません。実際の意思決定に当てはめ、使いながら確かめていく必要があります。
この前提に立つと、スキル設計は最初から完成させるものではなく、仮置きして検証するものへと発想を転換する必要があります。

