AIで、スキル設計と検証を前に進める
スキルを意思決定の「答え」ではなく「判断材料の1つ」として扱う以上、その粒度や範囲は、使ってみなければ分かりません。
したがって、スキル設計を最初から完成させようとするアプローチは、実務の前提にそぐわないといえます。
ここで必要になるのが、スキルを最低限の形で仮置きし、意思決定の中で確かめながら整えていくという進め方です。重要なのは、設計段階で正解をつくることではなく、判断を前に進められる状態をいち早く用意することにあります。
なぜ初期のスキル設計は重くなりがちなのか
実際のスキルの初期設計を行う際に、作業が想定以上に長期化するケースは少なくありません。多くの企業では、外部のスキルタクソノミーを購入し、自社の職務内容記述書(Job Description)と1つひとつ手作業で紐づける方法を採っています。
外部標準を活用できる点では合理的ですが、その一方で、設計負荷が高く、「なぜこのスキルが必要なのか」という根拠が分かりにくくなるという課題も抱えています。結果として、設計作業そのものに時間がかかり、「試しに使ってみる」段階に進めないまま検討が停滞してしまう。
これは、スキル設計を判断のための手段ではなく、完成させるべき成果物として扱ってしまうことに起因します。
「試せる状態を早くつくる」ためのAI活用
こうした課題に対し、EYがスキル設計支援で重視しているのは、人手では時間のかかる整理作業をAIで補完し、まず試せる状態を早くつくることです(図1参照)。
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ここでのAIは、スキルベースの採用や配置の適否を自動で判断する存在ではありません。スキル設計を効率化し、実際の運用で検証するサイクルを回しやすくするための補助役として位置づけています。
EYでクライアントを支援する際には、これらの作業において「EY Workforce Platform(以下、EYWP)」という独自ツールを活用しています。
スキルの粒度や項目は「仮置きして試す」
EYWPの特徴の1つは、クライアントの職務情報を起点にスキル設計を進められる点にあります。
クライアント企業の職務内容を投入することで、AIが日本を含むグローバルな職務・スキルの求人情報などのデータをもとにしたベンチマークを参照しながら、関連するスキルを整理し、紐づけます。
この際、単にスキルを列挙するのではなく、職務との関連性や一般的な重要度を踏まえた優先順位が提示されます。さらに、ベンチマークデータは定期的に更新されるため、重要度が高まりつつあるスキルや変化の兆しを把握することも可能です。
実際の支援では、次のようなプロセスで整理を進めています。
- 職務内容を投入
- AIが職務・スキルのベンチマークを参照し、関連スキルを紐づける(図2、図3参照)
- 職務との関係性を踏まえ、必要度の高いスキルと習熟度のレベルを整理する
- AIの提案をたたき台として、固有スキルや習熟度要件を人の判断で調整する
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こうして整理したスキル体系は、完成形ではありません。しかし、外部基準に裏付けられた、最低限の設計が可能となります。この情報をもとに、実際の現場で人材の議論を行いながら、スキル粒度やスキル項目を修正し、その妥当性を検証していきます。
「正解を探す」のではなく、「検証を回す」という発想へ
この一連の整理と構造化にAIを活用することで、設計が効率化され、「仮置きして試す」サイクルを回しやすくなります。
正解を1度で決めるのではなく、基準を参照しながら初期設計を行い、実際のタレントマネジメントで意思決定・検討を行う際にスキルの粒度や項目、活用方法を検証しながら、必要に応じて見直す。
この進め方こそが、スキルを実務に結び付けるための現実的なアプローチです。

