AI時代に人事の価値は上がる?! 「ビジネス理解」「感情マネジメント」「戦略の実行力」が鍵
最後のテーマは、「AI時代に人事はどうあるべきか」だ。AIによって定型業務や情報提供のあり方が変わる中、人事にはどのような役割が求められるのか。
林氏は、一般的にいわれる「人事は経営と現場の中継にあるべき」という考え方に異を唱えた。中継しているだけでは価値貢献できない。人事は、経営戦略を実行するために組織をどう動かすか、経営そのものにダイレクトに関わる仕事でなければならない。しかし、それができていないケースも多いという。
「AIやデジタルのスキルを社員に広げようとすると、資格制度をつくる、発表会を開く、処遇に反映するといった施策に時間をかけてしまいがちです。しかし、その間にも必要なスキルセットは変わっていきます。
先進的な企業では、そうしたことよりも『全員が1人20個の生成AIを使え』というように、組織を大きく前進させる取り組みをしている。そういうダイナミズムの中で、人事施策を考えていかなければなりません。極端にいえば、人事部という名前もなくし、まったく違うスキルセットを持った人たちで新しいチームをつくったほうがいいのかもしれない、とさえ感じています」(林氏)
河本氏も、今後は人事がビジネスを理解することがより重要になると話した。AIによって、評価制度や人事制度に関する基本的な情報は、現場のマネージャー自身が調べられるようになる。そうなれば、人事が制度を説明したり、オペレーションを担ったりするだけでは価値を出しにくくなる。
「AIが進むことで、各現場のマネージャーが人事の専門家ではなくても、人事的な対応をできるようになっていく。これからの人事が、よりビジネスに近い形で経営を支援していくためには、HRBPの機能を強めていかなければなりません」(河本氏)

髙橋氏は、林氏や河本氏の話を受ける形で、人事が「戦略実行パートナー」として機能する重要性を語った。会社としてどれだけ価値創出できたかに対して、人事がどれだけ貢献できたかが問われる。そのためには、リーダーや意思決定のあり方、組織に必要なケイパビリティを理解することが欠かせないという。
さらに髙橋氏は、社内だけを見て人事施策を考えるのでは不十分だと指摘する。自社が社会の中でどのような存在であり、どのような立ち位置で、どのようなステークホルダーや顧客と向き合っているのか。そうした外部環境を理解していなければ、人事として何をすべきかも考えられないだろう。
「AIに置き換えにくいものとして、判断力、創造力、共感力が挙げられるといいます。AIはいろいろなオプションを出してくれますが、最終的にどれを選び、実行するかは人間が判断しなければならない。今までの延長線ではない新しいものを生み出す創造力や、人をモチベートする共感力も、今後の人事の役割を考えるうえでヒントになると思います」(髙橋氏)
曽山氏は、AI時代には人事の価値がむしろ上がると語った。理由として挙げたのが、「感情マネジメントの価値」である。
AIが進化すれば、上司と部下の会話においても、相手にどう伝えればよいかというスクリプトは生成できる。しかし、どれほど論理的に正しい言葉が出てきても、相手との関係性によっては届かないことがある。そこにこそ、人事が関わる余地があるという。
「ロジックで説明できることは大事ですが、それだけでは人は動きません。論理は通っているけれど、なぜか反発したくなる上司っているじゃないですか。本当に腹の底から納得できたときに、人はスイッチが入るし、力が出るのだと思います」(曽山氏)
松澤氏は、AIによる効率化が進むほど、関係性の質や心理的なつながりが企業の差になる。AIに支えられたロジックと、人の納得感を生むエモーションの両方を扱える人事に、これからの可能性があるとまとめ、セッションを締めくくった。

