AI時代に問い直されるのは、Humanityを起点にしたLeadership
今回、あらゆるセッションにおいて、共通して唱えられていたキーワードがありました。それが「Humanity(人間らしさ)」です 。
現在、世の中の関心はいかにAIネイティブな組織を作り、生産性や経営の合理性を高めるかというテクノロジーの議論に終始しています。しかし実際は逆でした。AI時代だからこそ、企業の競争力を最後に分けるのは個人の「感情や意志」である。そんなメッセージが、カンファレンス全体を貫いていました。
なぜいま、世界のHRリーダーたちはHumanityへと立ち返るのか。それは、多くの企業がAIを導入した先に陥る「見えない罠」を乗り越え、組織の力を最大化するためです。
たとえば、国内の先進的なAI活用の文脈でも、DeNAの南場智子氏がこのような問題提起をされています。
効率化は進んだ。ところが作業が楽になった分、自ら仕事を詰め込むことが分かった。勤勉で真面目な日本人は皆同様だと思うが、AI活用で浮いた時間を、これまでやりたくてもできていなかった仕事に充てている。新規事業への人材のシフトが思ったほどできていないというのが正直なところ。
(イベント「DeNA × AI Day 2026」における南場智子氏の発言趣旨を要約)
効率化により「時間の余白」は生まれたはずなのに、なぜ人は新しいチャレンジや創造的な仕事へとシフトできないのか。その答えこそが、オープニングキーノートに登壇したSLAP社CEO スタン・スラップ氏が提示した、成果を引き出すマネージャーのアプローチの対比にありました。
- Management = Work harder(マネジメントは、もっと一生懸命働くこと)
- Leadership = Live better(リーダーシップは、より良く生きること)
どちらも「高い成果を出す」という同じゴールを目指しています。違うのは、そこへ向かうプロセスと、働く人の状態です。
従来の組織を主語にするManagementは、「前例や正解があった時代」に最適化されたアプローチです。会社が目標を設定し、マネージャーが進捗管理をして確実に数値を達成する。これまでは、そうした組織主導のやり方が成果を生んできたのは間違いありません。
しかし、AIの登場により“管理”そのものが自動化され、状況は一変しました。経営目線でいえば、AI活用による余剰人員の削減や生産性の向上は至上命題となり、その結果、現場の人や組織には漠然とした不安が静かに広がっています。
このような前例も正解もない激変の時代を迎えたいま、Managementのあり方も抜本的な変革を迫られているのです。
求められるのは、主語を個人へと戻し、その内側から湧き上がる意志を引き出すLeadershipへのシフトを、組織の側から仕掛けていくことです。
Leadershipとは、単に人を導くことではありません。「人が自ら力を出したくなる状態(意志)」を生み出すこと。その出発点は、まずリーダー自身が「どう生きたいか(Live better)」を深く理解することにあります。
自分の意志で明確な方向性を示し、相手を「機能や役割」ではなく「1人の人間」として尊重する。そうしたリーダーへの納得と信頼があるからこそ、メンバーは失敗を恐れずに自分の内なる意志や感情を表に出せるようになります。結果として、「会社に言われたから」ではなく「自らの意志で仕事にコミットする状態」——スラップ氏の言う「Emotional Commitment(感情的なコミットメント)」が生まれるのです。
そして、このカンファレンスで、私が最も深く胸に刻んだ核心は、Emotional Commitmentを引き出すためのHumanityを、会社が受容し、業績を最大化するための「経営インフラ」として、組織のカルチャーに組み込むことが重要だということです。
1人ひとりが感情を持ち、自分の人生をより良く生きようとする存在であることを、組織のカルチャーとしてあたりまえに受け入れる。会社が「人間としての自分を大切にしていい」というスタンスを明言する。
この強固な土壌があってはじめて、AIによって生み出された「時間の余白」は、既存のタスクで埋められることなく、自発的に動き出す爆発的な「創造性」へと転換されます。そして結果として、組織全体の圧倒的な競争力へと還元されていくのです。
Humanityとは、単に社員に優しくあることではありません。AIにより仕事のやり方は激変しても、人が最後に動く理由は、命令ではなく納得であり、監視ではなく信頼であり、管理ではなく意味だからです。
変化の激しいAI時代において、組織によるHumanityの受容は“きれいごと”ではなく、企業がイノベーションを起こし、持続的に強くなっていくための「最も本質的な成果の条件」なのだと確信しました。

