現地一括採用や「日本語必須」条件の緩和など、求人トレンドに変化が
ご存知のように、経済産業省は2030年までに約60万人のIT人材不足を予想している。大手のベンダーやSIerでは、定期採用に加え、年間を通じた人材募集に取り組んでいるところも少なくない。しかし、新城氏はそうした日本の人材供給の現状を「量的にも、質的にも足りない」と指摘する。求人に対するITエンジニアの絶対数不足に加え、ブロックチェーンやAIなどの求人も増えているが、こうした高度な先端技術を身につけた人材は圧倒的に少ない。
日本国内で必要な人材を確保するのが難しければ、企業が海外に目を向けるのは必然だろう。
「最近では海外まで出向いて、10~100名規模で現地採用する例も増えてきました。また、中国やベトナムなどアジア地域への拠点展開を図る企業からも、まとまった人数を現地で採用したいという要望が出てきています」(新城氏)
JELLYFISHでは2017年から、こうした企業に同行して、現地でのコーディネートや採用に関するサポートを提供するサービスも開始した。
単に海外へ人材を求める動きが活発化しているだけではない。求人する日本企業側にも変化が出てきているという。顕著な例が、「日本語必須」の要件だ。少し前までは「日本語ができる人」がほぼ絶対条件だったが、最近はIT業界を中心に「特にこだわらない」企業も増えてきている。
「とはいえ、やはり日本語は必須要件の一つですが、簡単な日常会話のレベルであればOKというようにハードルは年々下がってきています。特にITエンジニアの場合、コードを見ればお互いに必要なことは通じるといった、割り切った考え方が根づいてきた印象があります」(新城氏)。
この傾向は、コミュニケーションツールの進化も後押ししている。メールしかなかった頃は日本語の「文を書く」能力が不可欠だったが、Slackなどのチャットツールなら一言ふた言で意思疎通できる。海外での人材発掘・採用を手がける鵜瀬氏も、「これからは日本語の能力だけを重視するのではなく、コンピューターのことは英語が基本なのだから、そこがしっかりしていればOKといった割り切りができるよう、採用側も積極的に意識を変えていくことが、より優れた人材を獲得する上では大切です」と語る。
グローバルでの人材発掘や現地での募集選考など、採用スタイルの多様化が進む
新城氏は求人トレンドの変化を表すトピックスとして、ブロックチェーンサービス関連での採用実績を挙げる。ブロックチェーンエンジニアの求人は急増しているが、まだまだ人材は少ない。あちこちで争奪戦が繰り広げられる中、JELLYFISHでは2018年度だけで海外から8名の採用に成功した。
「いずれも本人から直接の応募をもらって、Skypeで面接して日本に招き、ブロックチェーンエンジニアをお探しの企業に紹介しました。当社では英文サイト『Mixess(ミクセス)』やSNSを展開しているので、日本で働きたいと考える方がそれらを見て連絡してくれるケースも多いですね」(新城氏)。
こうした最先端領域の人材は国内だけでは難しく、グローバル規模での目配りが必要だ。先の採用に成功したブロックチェーンエンジニアも、コロンビアやベラルーシ、香港など世界各地からの応募だった。
「今後、先端領域の人材は、例えば“ブロックチェーンなら北欧エリアで一本釣り”等の探し方が必要になってくるでしょう。すでに当社でも、そうした新しい採用パターンに対応できる態勢固めを進めています」(新城氏)
鵜瀬氏も「通年で求人を実施する企業が増えています。直近では、1社のお客様へ、年間で通算100名を韓国で現地採用して内定をいただきました」と成果を明かす。顧客はITや機械設計の技術者をメーカーに派遣している会社だったが、まとまった人数を日本国内で確保することが難しく、JELLYFISHに「韓国で日本語とITスキルの両方を満たす人材を確保したい」と依頼。毎月平均で15~25名のペースで採用を継続してきた。日本語が必須要件の場合、やはり漢字圏の国の人材が多く、韓国はその代表格だ。
求人企業の担当者みずから海外へ出かけ、現地で採用にあたるケースも増えてきているという。そうした顧客への対応サービスの責任者である鵜瀬氏は、「日本国内にいて採用するのと、現地まで行ってみるのとではやはり大きく違います」と語る。というのも、日本国内にいると「自社が欲しい」人材像ばかりを一方的に描いてしまいがちになるからだ。
「それが、実際にその国の文化や人々に触れることで、『相手があっての採用』という意識が生まれてきます。そうした現地を肌で感じる体験が、求人側の考え方を良い方向に導いていく例を、何度も目の当たりにしてきました」(鵜瀬氏)
しかし、国内での人材採用とは勝手が違うところも当然ある。例えば、自社の説明だ。相手は日本の企業のことなど、ほとんど知らないのがふつう。相当念を入れて行わないといけないそうだ。
「採用する企業の側も不安ですが、応募する側はもっと不安です。『日本のどんな会社なのか?』という疑問にしっかり答えられなければ、わざわざ日本まで来てくれません」(鵜瀬氏)
外国人雇用を検討している企業の担当者は、「一度私たちと一緒に現地に行ってみてほしい。いろいろなヒントを得られるはず」と鵜瀬氏は示唆する。
IT系以外の企業にも最適な外国人技術者を紹介
海外に人材を求める企業は、もはやIT業界だけではない。いわゆる「技術者」を必要とする分野では、例外なく人手不足が進んでいる。JELLYFISHも、こうした技術者へのニーズの多様化に積極的に応えていく方針だ。
「そのために今、理系人材に力を入れているところです。特に今わが国では、建築、建設、施工管理などの人材が圧倒的に不足しています。当社にはITエンジニアに以外にも、さまざまな職種の海外人材を手がけてきた経験があります。そうしたノウハウの蓄積を生かして、より幅広いお客様の人材探しにお応えしていきたいと考えています」(新城氏)。
とりわけ土木系業界は、いろいろな分野の職人が集まる現場で専門用語も飛び交うため、監督や技術者はやはり日本人という気風が強かったが、それも今では大きく変わりつつあると鵜瀬氏は言う。
「最近では、海外で建築学を専攻したエキスパート人材も日本に来ています。中でも韓国は建設技術力建築制度資格や専門用語が日本と近い部分が多く、採用数も多いですね。就職先は、工場のプラント設計や原子力発電所、プラントなど大規模で高度な施設の建設や施工管理業務に携わる会社が目立ちます」(鵜瀬氏)
JELLYFISHでは企業から求人依頼があると、国内に在住する外国人だけではなく、必要とあれば海外まで広げて探したり、現地で採用して日本に招いたりすることも可能だ。この国内・海外の両方から人材を発掘できる柔軟さも、他の海外人材エージェントの追随を許さない同社の強みだ。
入社後のコンサルティングなど、人材・企業の双方に親身のフォローを提供
いよいよ欲しい人材が見つかり、採用となった時に注意すべき点は何か。何より重要なのは、評価や給与制度を日本人と同じにすることだと新城氏は強調する。
「評価制度を日本人と別にする考え方はおかしいと、そろそろ気づいてほしいと思います。同じ職場にいる以上、『一緒に働く仲間になる』という意識を雇用側がしっかり持ち、それが相手にも伝わる努力をしなければ、せっかく優れた人材が来てくれても、すぐに辞めてしまうことになりかねません」(新城氏)
とはいっても、海外人材が初めての企業では、具体的にどうしたらよいかわからないし、言葉や文化も違う相手をフォローできる人材もいるとは限らない。そうした顧客のために、JELLYFISHでは就職後も継続的にフォローアップを提供するサービスを提供している。一般に人材エージェントは採用・入社の時点でサービス終了だが、同社では入社後も専任コンサルタントが様子を確認しながら、そのつど適切なアドバイスを行っている。
「求人企業と人材が対等な立場で良い関係を築けるよう、JELLYFISHが仲立ちしていくことが、私たちの大切な存在価値だと考えています。コンサルタントにも外国人を登用して、相手の国や文化に理解の深い人間がサポートを担当できるようにしています」(新城氏)
こうした努力を重ねた結果、海外人材から信頼できるエージェントと見てもらえるようになったのは、何より大きな財産だと新城氏は言う。
「もし退職した場合も、人材と企業双方の言い分を聞き取って課題を分析し、課題を解決した上で次の紹介につなげるサイクルを確立できたのも、こうした人材やお客様企業との信頼関係があってこそです」(新城氏)
今後ますます増える海外人材需要に向け、JELLYFISHでは、企業の中長期的な定期採用プランにもさらに注力していきたいと考えている。
「年間一定のペースと規模で採用していかないと、ビジネスが回らないところまで状況は来ているお客様もいます。こうした企業への定期的な採用プランの提案や、いろいろな国の人を採用してシナジーを出したいというご要望にも応えられるだけのリソースをすでに準備しています」(鵜瀬氏)
一方、新城氏は、今後は紹介できる海外人材の対象国をさらに広げていきたいと展望を語る。加えて現在は「日本語が使える人材」がメインだが、将来はよりスキル指向のハイレベルな人材を紹介できるよう、ポートフォリオの充実を図っていくという。
「優秀でなおかつ日本に関心のある人を積極的に発掘して、人材不足に悩む日本企業とのマッチングをお手伝いできればうれしいですね。最近は導入事例も順調に増えており、そこから得たノウハウや採用戦略を、国内のお客様に提供していくのが使命だと考えています」(新城氏)
これからも多彩な業界・業種に実績を築き、企業が人材を探す際は真っ先に指名してもらえるエージェントになれるよう努力していきたいと語る新城氏。人材不足に悩む日本企業は、JELLYFISHのこれからの動向にぜひ注目だ。