AIはもともと「コンピューター」を意味していた
柳橋仁機氏(以下、柳橋):皆様こんにちは。株式会社カオナビ代表の柳橋と申します。本日はお忙しい中、足を運んでいただきありがとうございます。このセッションでは「AIと人事」について話をさせていただきます。
ここ数ヶ月、僕自身もこのテーマでずっと話したいと思っていました。皆さんも最近、仕事の中でAIって耳にすることが多いと思います。しかし、「それって何なの?」「どうやって使うの?」「今後どうなるの?」などといったところが、ふにゃ~っとした理解のままだったりするんじゃないかなと。そういうところをこの45分間で完全に理解……とは行かないかもしれませんが、皆さんのお仕事にAIを活用できるヒントや、AIってこういうものなんだなという理解を持ち帰っていたただければと思っています。
ただし、僕はAIの専門家ではないので、特別ゲストとして、このテーマに最高にピッタリの方をお招きしました。楽天の森正弥さんです。正弥さんから簡単な自己紹介と、今取り組んでいらっしゃるお仕事の内容をお話いただければと思います。
森正弥氏(以下、森):楽天の森正弥と申します。皆さんよろしくお願いします。楽天では技術戦略を担当する役員をしておりまして、私がファウンダーの楽天技術研究所という組織の統括をしております。現在、東京、ニューヨーク、ボストン、シリコンバレー、パリ、シンガポール、そしてインドのバンガロールの世界5か国7拠点に研究所があり、世界で150名ほどの研究者がおります。そのほとんどがコンピューターサイエンスのPh(博士号持ち)で、学術的に最先端の研究を行っています。
楽天技術研究所の研究成果は、楽天というビジネスのフィールドを使って実証しています。AIについても、研究成果を楽天の様々なサービスで使っていく形になります。一口にAIと言っても幅広いですが、AIをマーケティングに活かして潜在顧客を発見するソリューションのほか、AIにより自動で運搬する車やドローン、自動で航行する船といったeコマースの配送につながる研究などを手がけています。
柳橋:現在、AIの第一人者として活躍されている森さんですが、私も森さんも新卒でアクセンチュアという会社に入社しまして、それが2人の接点となっています。お互い技術者で、森さんが僕の2つ先輩です。僕は森さんの務めるプロジェクトにたまたま入って、プログラミングのいろはを教わりました。あれから20年ほど経ち、お互いこういう(AIに関係する)仕事をしていますから、「せっかくだからこういうイベントやりましょう」ということでご登壇をお願いしました。
まずは「AIとはなんぞや?」という、超基本のところから話を始めたいと思います。
皆さん、AIに近しい言葉で「ディープラーニング」という言葉を聞いたことがあると思います。最近ではAlphaGoとかで有名になりましたが、ではディープラーニングとAIって何か違うのか。また、「RPA(Robotic Process Automation)」も有名になっていますが、それもAIと何が違うのか。そもそも、みんなコンピューターを使ってるけど、コンピューターとAIって何が違うのか。そんな比較対象を交えつつ、「AIって何なのか」についてお話しいただけますか。
森:AIって曖昧かつ難しいキーワードで、実は専門家によって定義が違いまして、AIに関する共通の定義っていうのは存在しないんです。AI自体は60年くらい前からあった言葉で、もともと「人間に近い情報処理をする機械」みたいな意味合いだったんですね。でも、それってまさにコンピューターじゃないかと……つまり、2000年くらいまではその時最も進んでいるコンピューター技術のことをAIと呼んでいたんです。
ところが、2010年くらいから、マシンラーニングやディープラーニングといった技術のすごさが発見されてきまして。それからAIという言葉は、どちらかというと、ディープラーニングやそれに類する技術を指すことが多くなってきた。つまり、「データから法則性を発見して、それによって人間を超える情報処理を行う」ということを意味するようになったんです。もともとはコンピューターのことをAIと呼んで良かったんですけど、最近では学習するもののことをAIと区別することが多いですね。
柳橋:概ね、ディープラーニングはAIの主要素と理解していいんでしょうか。
森:そうですね。ディープラーニングの技術自体は1960年代に論文が出ているという、古くからある技術ですけど、効率の悪い技術として有名で、2000年くらいまでは「こんなの役に立たないよね」と言われていたんです。でも、インターネットの発展によってデータがどんどん集まり、ビッグデータを処理できる技術が確立されてくると、この昔の技術が掘り起こされて、「これやっぱりすごくない?」となった。ディープラーニングが再注目されるようになったんです。そして2012年くらいを契機に、今のディープラーニング、AIブームというのができたという流れです。
2012年に何が起こったかというと、カナダ・トロント大学のジェフリー・ヒントン先生――昔からディープラーニングを研究されていた方ですね――のところの学生さんが、ディープラーニングの技術を使っていろんなコンペに応募したんです。例えば、画像認識の精度を競い合うコンペとか。そうしたら、他の画像認識の研究者を押さえてトップの成績に輝いた。また、メルクさんのやっている、製薬に関わる化合物の活性化モデルに関するコンペにも、ヒントン先生の学生がディープラーニングを使って参加したところ、専門の医療従事者の作ったモデルよりもはるかに高い精度を叩き出した。薬とかについて全く知識のない学生がです。「一体なんだ、これは」となって、ディープラーニングに注目が集まったわけです。
柳橋:ちなみに、皆さんがよく耳にするRPAという言葉とは全くかぶらないんでしょうか?
森:AIブームが始まり、AIの精度も高まってきたし、AIを使ってバックオフィスの業務も自動化したほうがいいんじゃない? ということで出てきたのがRPAでした。技術的にはディープラーニングなどのAI技術とは別なんですけど、ただ、同じフレームに乗っかってはいます。
柳橋:端折り過ぎた理解かもしれませんが、RPAに関して、僕は(Excelなどの)マクロみたいなものと認識していて、これは違うんでしょうか。RPAは基本的にルールベース(決められた手順で処理を行うだけ)なので、処理結果が適切でなくても処理し続けるんですよね?
森:理解のスタート地点はそれで合っていると思います。ただ、AI時代ということでデータを使うという機運がすごい高まっています。なので、RPAでもデータから法則性を発見したり、改善を自動で行ったりすることへの期待は高まっています。
柳橋:この後も深掘りしていきますが、皆さん、AIについてのイメージはつかめましたでしょうか。