失敗することを許容しクリエイティビティを発揮しやすい組織が不可欠
セミナーにおいて和田氏は、インターネット~デジタル時代に日本企業の変革成功率が下がってきている理由は、「戦略自体」の問題ではなく、不確実な時代に合った「戦略実行マネジメント」ができていないからであると結論付けた。
近年の日本企業の戦略は、論理的かつ包括的な事業システム全体を捉えたものになってきており、日本人の戦略立案能力が海外と比べて著しく劣っているわけではないものの、戦略を実現させるための変革マネジメントのやり方はデジタル時代に合っていない状況が多く見られるという。また、決められた目標に向けてぶれることなく一丸となって取り組む“プロジェクト X”を成功させてきた「完璧主義」や「(強すぎる)現場主義」の考え方が色濃く残っており、それが近年の不確実な時代に合わないどころか、かえって変革活動を阻害するようになっているとした。
もう1つの問題は、日本企業が人の知的生産性、特にクリエイティビティを引き出すための組織的な取り組みにあまり力を入れていないことと、加えてクリエイティビティを抑制してしまうような社内の仕組みが多く存在していることにあると指摘。例えば、成果主義+目標管理制度によりプロジェクトメンバーは相対的に低い評価になりやすい、チャレンジしろと言われるのに確実に成功するというシナリオしか稟議が通らない、対処方法が見つかっていないトラブルの報告は出世に影響するなどだ。
そして、組織メンバーにおいては「組織に裏切られる(裏切られたと思い込む)」ことが続く負のサイクルにより、組織全体の雰囲気として、「良くしようとする努力が報われない」という諦観が醸成されている。それを払拭するためには多大な努力が必要だ。
不確実な時代においては、予測しきれないこと、最善を尽くしても失敗があることを許容し、少しずつ正解に近づけるアプローチ(1.完璧を求めない漸進型マネジメント)と、最も貴重なリソースであるコア人材と時間を最大限生かし、人材が120%の力を発揮できるようなリソースマネジメント(2.クリエイティビティを最大限発揮させる仕掛け)が必要と和田氏。
ただし、あるべき姿をいきなり実現しようとすると、社内の多数の意思決定プロセスを抜本的に変えることになり、変革推進のメリットが出る前に、大混乱や反発により頓挫してしまう。最初のステップは、どうしても成功させたい変革活動だけを最低限救い上げるための、最小限のプロセスの変更や意思決定の特例措置などで対処すべきだと提言している。
会社が社員による変革の足を引っ張っている
本講演では、参加者にアンケート(有効回答数153、うち経営層90/一般部長以下63)を実施。以下のように、いくつか驚くべき結果が出たという。
- 変革取組みに「必要十分なリソースがアサインされていない」:74%
- 要員の「質」か「量」のいずれかが事前に確認・準備されていない率。変革プロジェクトは、必要な戦力を確認・準備しないまま、勝算のない戦いを強いられている。
- 「ヒトのパフォーマンス」を高めるアシストをしていない:71%
- 自社が変革を成功させるのが得意ではないと感じている(上からダメだと思われる、自信がないと委縮して知的生産性低下)か、他部門への貢献が評価されないか何れかを選択した率。GE社が2018年に世界20か国で行った調査で日本だけが、最大のイノベーション阻害要因として社員のタレント・スキル不足を挙げたのと通じる。
- 変化に対する柔軟性が経営層とそれ以外にギャップ大:経営層38%、一般部長以下60%
- 確実に成功するという計画のみが承認されるか、動き出したプロジェクトは止められないかいずれかを選択した率。現場が忖度しすぎているのか、各種プロセス・制度が経営層の思いとずれているのか、経営の意思とは異なるギャップが経営の柔軟性を損なっている。