介護士とエンジニアがお互いを高め合う環境
マスクド:エクサウィザーズの社長に就任するまでのご経歴について教えてください。
石山:子供の頃から興味の幅が広く、社会科学にも関心がありました。大学では文系学部に進学しましたが、大学院で理系に変更しました。大学生のときに米カーネギーメロン大学の人工知能プログラミングコンテストに出場して、東京工業大学の先生から「君は大学院から理転したほうがいい」と言われたことがきっかけです。
大学院卒業後は、リクルートホールディングスに入社しました。大学院在籍中に学会でアラン・ケイ氏[1]に出会ったのですが、そのとき彼が述べたのは、「テクノロジーとメディアとリテラシーとレボリューションによる『四位一体』こそが、コンピューターサイエンスに重要だ」ということでした。当時のリクルートは紙からデジタルに移行するタイミングで、ここで自分も四位一体に挑戦したいと思ったのです。リクルートではAI研究所(Recruit Institute of Technology)の所長などを務めることになりました。
リクルートでデジタルへの移行が完了した頃、自分のリソースをより社会的価値の高い領域に使いたいと考えて、介護を手掛けるデジタルセンセーションに参画しました。当時の同社は経営が苦しかったものの、自分も少しは名前が売れており、事業を再生できると思いました。
そうしているうちに、エクサインテリジェンス(当時)の春田(真氏。現エクサウィザーズ会長)から、吸収合併の話が来ました。この吸収合併で2017年にエクサウィザーズが誕生し、春田が代表取締役会長に、私が代表取締役社長に就任しました。
経営力に課題がありソフトウェアエンジニアが多いデジタルセンセーションと、春田の高い経営力と機械学習エンジニアを持つエクサインテリジェンスとの合併は、シナジー効果を発揮しました。また、自分も春田も顧客からデータを預かって分析結果を納品するのではなく、AIプロダクトを作りたかったので、プロダクトに搭載される技術がインターネットからAIに変わる流れの中で一緒になれたのは大きいですね。
マスクド:両社では文化や社風が違っていたと思います。どのようにエンジニアチームをまとめましたか。
石山:両社のエンジニアは当初からうまく噛み合いました。デジタルセンセーションは介護、エクサインテリジェンスは創薬を手掛けていました。これらにロボットとHR Techを加えた4領域をプロダクトにする方針が合併初期段階で定まって、リソースをうまく配分できたからです。もしも「創薬だけ」あるいは「介護だけ」という方針だったら衝突もあったでしょう。それに合併した両社がお互いの領域で、すぐに売上を伸ばせたことも大きいです。100と100の会社がくっついて200になり、さらに100増えて短期的な成果が上がったのも影響しています。
マスクド:「1+1」が2ではなく、200にもなりますからね。幅広いプロダクト開発を進めるにあたって、どのような組織づくりを進めましたか。
石山:弊社は機械学習エンジニアや介護士など異なるバックグラウンドの人材がおり、人は交わることで成長できます。例えば、機械学習エンジニアが介護士の深い話を聞くことで、AIを活用する領域も広がります。新しい問題に挑戦することは、エンジニアにとっても成長につながるでしょう。一方、介護士も、人間の力だけでしか解決できなかった問題をAIで解決できます。
こうしたコミュニケーションを取ることでデジタルリテラシーが上がり、介護施設のAI導入コンサルティングができるようになりました。同じ組織だからこそ、お互いに成長できる組織になったと思います。
マスクド:同じ会社でも組織が異なると、対立関係になりがちです。組織拡大(2020年2月時点で社員数が約180名)を進めていますが、人材不足の昨今でどうやって人材を採用していますか。
石山:社員数は2020年3月末に200名ぐらいになります。採用における一番のポイントは、優秀な人材が優秀な人材を呼び込むことです。
エクサウィザーズには複数のプロダクトがあり、各プロダクトにCTOクラスのエンジニアがいます。いわゆる「ウィザード」が多く在籍しており、別の見方をすればCTO連合(ユナイテッド)になります。デジタルセンセーションとエクサインテリジェンスでそれぞれ1人ずつCTOがいましたが、他社のCTO経験者やGAFA出身者も入社しています。
マスクド:優秀な人と働けるのはエンジニアにとって魅力的ですね。御社では外国人採用にも積極的ですが、一方で言語や文化の違いなどを懸念する企業もあります。国籍の異なる社員が活躍できるようにする取り組みなどはありますか。
石山:まず私と春田が海外ビジネスを経験しており、社外取締役でもグローバルビジネスが得意な人間がいます。機械学習エンジニアは海外の論文を読むため英語を身に付けていますし、職種も介護士からエンジニアまで幅があります。幅があることが当たり前の環境なので、異文化間の衝突も起きにくいです。こうした下地があるおかげで、外国籍社員の採用が進んでいます。
注
[1]: 米国の著名なコンピューター科学者。1台のコンピューターを複数人で共有することが当然だった時代に、個人が使用する「パーソナルコンピューター」の概念を提唱。また、オブジェクト指向プログラミングとユーザーインターフェイス設計に関する初期の功績で有名。