重要なスタートアップ期の人材採用をどう進めたか
マスクド・アナライズ(以下、マスクド):Googleの日本法人から、スマートドライブに3人目の社員として入社した経緯を教えてください。
永井雄一郎さん(以下、永井):Googleに入社したのは日本での採用を強化する時期で、事業会社で採用の仕事ができることや、ITに対する好奇心があって入社しました。そこで「Googleはどんな人材を採用するのか。それはなぜなのか」を理解しながら、米国本社を中心にグローバル展開する中央集権的なオペレーションを学べたのは、非常に面白かったです。
しかし、5年ほど経つと、入社時は400人程度だった社員が1300人以上に増えていて、組織拡大とともに自分が携われてる業務もさらに細分化されていきました。その後のキャリアも考えたとき、スタートアップのような環境でゼロから事業を立ち上げてみたいと考え始め、それで出会ったのがスマートドライブです。
マスクド:新天地として、スマートドライブに転職されたきっかけは何でしょう。
永井:Google在籍時から、自動運転が今後業界を大きく変えていくことは把握してました。ただ、逆にいうと、自動運転ばかりが脚光を浴びていた印象がありました。そんな中で紹介されたのが、自動運転以外の領域でビジネスを立ち上げていた北川(現 スマートドライブ社長)です。当時彼は24歳で、自分より年齢が一回りくらい下の大学院生でした。その若さで、まだ当時日本では目をつけている人がほとんどいなかったモビリティデータの価値について考えていて、すごく驚きました。それで、何もないところから彼と一緒に何かを作っていきたいと思い、Lockwood(現 デザイン責任者)、元垣内(現 取締役)に続く3人目として入社しました。
これまでのキャリアは人事の中でも採用がメインでしたし、スマートドライブにも人事担当者として入社したのですが、入社直後は人事以外の業務のほうがずっと多かったですね。最初の仕事はウォーターサーバーの発注でした。他にもプロダクトのQAなど、会社に必要なことなら何でもやりました。これは自分でも非常に良い経験だったと思っていまして、どんな領域の仕事であれ、とにかく会社に貢献しようとするマインドはとても重要ですし、口で言うのは簡単でも実際にやるのは意外と難しかったりするので。
マスクド:スタートアップでは初期メンバーが大変重要ですが、どのような人材を採用しましたか。
永井:社員数が1桁でも入社してくれる人というのは、能力とは別にリスク耐性が強い人でなければいけません。採用したい即戦力人材は主に30代だったので、ご家族から心配・反対されることもよくあります。とはいえ、その人たちを説得するために「会社は絶対に成功するから大丈夫」とは保証できませんし、逆に「将来どうなるか分からない」とも言えません。その塩梅が難しい中で、そのハードルを乗り越えて入社してくれた社員にはとても感謝しています。
マスクド:採用では将来性だけでなく、知名度の低さも課題になりますが、どうやって解決しましたか。
永井:弊社のことは当時は誰も知らなかったので、待っていても応募がくるわけではないですよね。自分たちから声をかけるしかありません。ダイレクトリクルーティングで、採用したい人に継続して声をかけていきました。地道な採用活動でしたが、山を登るような感覚で楽しんで取り組めました。
反省点としては、3人目に人事として入社したため、早い段階でメンバーが「採用は永井に任せておけばいい」と考えてしまい、リファラルで必死になって採用するという感じにはならなかったことですかね。社員全員が採用活動をするというスタンスでやっていれば、より円滑な採用ができたかもしれません。とはいえ、それには当然人的コストもかかるので、一概にどちらがいいとは言えないと思いますが、会社がある程度大きくなってくると、またリファラル採用が鍵になってくるフェーズがきます。そういう意味では、ずっとリファラル採用にスイッチが入っている状態だったら……と考えないわけではありません。
また、当初は「IoT」というキーワードを前面に出しすぎたために、ハードウェアや自動車の会社だというイメージが先行し、自動車が好きな人が集まる会社と思われて、こちらが採用したい人材と応募者にギャップができてしまいました。たしかに、メーカー企業でハードウェアや組込ソフト開発を経験したエンジニアも社内には一部います。しかし、弊社は自動車などのモビリティデータを収集活用するサービスとプラットフォームを展開しており、在籍しているのは、Webサービスやソーシャルゲームなどを開発していたバックグラウンドのエンジニアがほとんどです。車というハードウェアに対する興味や、車載器やモビリティ業界の知見みたいなものは、特に必要としてないんですが、それが完全に誤解されてしまっていました。
そこで、最近は「モビリティデータプラットフォーム」や「データサイエンス」を事業の主軸としているという表現をするように改めて、自動車免許すら持ってなくても問題ないですよと周知し直してきました。まだまだ正しく認知されているとは言い難い状況ですが、以前よりは良くなってきています。