エンゲージメントを高めるピープルマネジメント
――企業の成長において、マネージャーが重要な役割を果たしていることは昔から変わりません。しかし、最近では「指示・命令」が中心の昭和・平成的なリーダーシップが通用しなくなるなど、マネージャー像が大きく変化しているように感じます。この変化についてどう見ていらっしゃいますか。
かつてのマネージャーの悩みのほとんどは、「どうすれば部下のパフォーマンスを高めて成果を上げられるか」ということでした。この悩み自体は今も同様に存在していますが、多くの企業は、組織が持っていたパワーが従業員にシフトしたことに追随できていません。さらに経営環境の変化が部下の育成をさらに難しくしています。少し考えてみただけでも、「長期雇用の終焉」「年功序列の崩壊」「ハラスメント問題」「働き方改革」など、様々な要因がマネージャーたちの悩みをより複雑なものにしています。
とはいえ、経営者も人事も変わらなくてはならないことは十分に認識しています。従業員との間に生じる摩擦を放置していては、組織のパフォーマンスを上げることは困難です。もつれた糸を解きほぐし、組織のポテンシャルを最大限に発揮できるようにするには、マネージャーが従業員一人ひとりに向き合い、組織の中での成功にコミットする「ピープルマネジメント」を実践することが求められているのです。
――なるほど。今のマネージャーに必要なのはピープルマネジメントの実践であると。
その必要性は2つの調査結果からも見て取れます。次の図1は、ピープルマネジメントが従業員のエンゲージメントに与える影響を調査した結果です。最も影響を与える要素になった「(自身の)パフォーマンスがしっかり承認されること」以下、これらの施策を実践することでエンゲージメントを高めることができます。
そして、ピープルマネジメントによりエンゲージメントを高めれば、組織のポテンシャルが最大限発揮されるようになることが、図2の調査結果で明らかになっています。エンゲージメントの高さ上位25%の企業は、顧客満足度や生産性などの面で、下位25%よりもずっと高い。
注意したいのは、エンゲージメントを高めることの目的は、あくまでも会社の業績向上にあることです。それを忘れ、ただ居心地の良い環境を作るだけでは状況は変わりません。難しい舵取りが求められる事業環境だからこそ、すべてのマネージャーが部下の成功にコミットする優れたコーチに変わらなくてはなりません。時にはメンバーと軋轢が生じることもあるでしょう。しかし、それがひいてはメンバーのパフォーマンスを最大化し、組織として大きく成長する機会を得ることにつながります。メンバー一人ひとりの成功を願い、伝えるべきことを伝えることが必要なのです。