今回の要旨
新型コロナウイルス感染症が長期的にまん延したことで、一気に進んだリモートワーク。従業員の継続意向は高く、リモートワークやハイブリッドワークは今後の働き方の主流となる可能性が高い。一方で、新しい働き方にも既存の労働基準関係法令は適用されるため、労務マネジメントをアップデートする必要がある。事業戦略や従業員ウェルビーイングの観点から、海外からのリモートワークやグローバル組織への対応も必要になると予想されるが、税務面・法務面での包括的な検討が必要なため、現時点ではハードルが高い。デジタル時代の労務マネジメントは、人事・労務的な観点だけではなく、事業戦略、従業員ウェルビーイング、海外の税務といった多くの検討論点を踏まえて最適解を導く必要がある領域なのである。
リモートワークの前提と現状
そもそも、会社と従業員の労働契約において、会社は従業員が働く場所を指定でき、当該就労場所への出社命令がある場合には、従業員に出社義務が生じる。出社義務を履行できないときは、労働契約の不履行による懲戒処分や評価引き下げなどの対応もあり得る。
一方で、新型コロナウイルス感染症のパンデミックへの対応として、2020年以降は多くの企業が臨時的にリモートワークを導入した。2023年3月時点の実施率は全国では約3割、東京23区では約5割[1]であった。東京都の実施率は7月時点では約4.5割[2]とやや減少しているものの、引き続き高い傾向にある。
また、昨年の調査結果ではあるが、リモートワークの実施者のうち約8割がコロナ収束後もリモートワークの継続を希望しており[3]、リモートワークは労使ともに定着したといえそうだ。
これらの状況を踏まえ、従業員のウェルビーイングの観点からも、リモートワーク、もしくはオフィス勤務とリモートワークを組み合わせた「ハイブリッドワーク」を前提とした働き方の実現が企業に求められていると考える。
しかし、現状は新しい働き方において共通の唯一解があるわけではなく、先進企業が個別最適解を模索している状況である。たとえば、日本では、NTTグループが原則全社員区分を対象にリモートワークを基本とする新たな働き方を7月から導入した[4]。海外では、2021年に米国ナスダック市場にIPOしたGitLab社の全社員がグローバルでリモートワークをしている。それぞれ極端な事例ではあるが、企業はこれらの先進事例を参照しつつ、その国の法制や労働市場の実態に応じた施策を検討すべきであろう。
注
[1]: 「第6回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」内閣府(2023年4月リリース、2023年7月1日アクセス)
[2]: 「テレワーク実施率調査結果 7月」東京都 産業労働局(2023年08月14日リリース、2023年08月22日アクセス)。
[3]: 「第七回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する調査」パーソル総合研究所(2022年8月30日リリース、2023年7月1日アクセス)
[4]: 「リモートワークを基本とする新たな働き方の導入について」NTTグループ(2022年6月24日リリース、2023年7月1日アクセス)