「育成フレームワーク」および「ラダー」の概要については、本連載第1回をご覧ください。
3つの人材育成方法
企業の人材育成において、成長の段階を示すラダーをつくり、自社ではどのように成長していけるかを社員へ示すことは重要です。しかし、それだけでは十分とはいえません。全体的な道筋を示しただけでは、自分の能力をどう伸ばしていけばよいのか分からないからです。そこで、1つひとつの力をどう身に付けるとよいか、社員に具体的に示す必要があります。
企業の人材育成の世界では、人の学び方は大きく分けて3つあるといわれています。
1つ目は、仕事の中で学ぶ「OJT」です。On-the-Job Trainingと呼ばれているとおり、現場での仕事を通じて必要なスキルを培っていく方法です。日本企業では従来、このOJTが育成手段として重視され、先輩がやってみせたり本人がやってみたりしながら、暗黙知も含めて体得していくのが主流でした。
2つ目は「Off-JT」と呼ばれる、仕事の現場を離れて学ぶ方法です。いわゆる研修に参加してスキルを培っていく方法です。一口に研修といっても、一方向的に座学で学んでいく講義形式から、ワークやディスカッションを通して参加者同士で相互にアウトプットしながら学んでいくワーク形式など、やり方はさまざまです。最近ではOJTとOff-JTをミックスした「アクティブラーニング」といったプログラムも出てきています。
3つ目は、本人が参考書などで勉強して学ぶ「自己研鑽」です。人が成長する手段という意味では、誰に言われるでもなく、自学して必要なスキルを培っていくこともあるでしょう。日本の社会人は業務時間外の学習時間が他国と比較して極めて低いことが問題視されている現状もありますが、会社としては自社の社員に積極的に自己研鑽をしてもらえるよう、金銭的な補助(資格受験費や参考書購入費の補助など)を通して支援していくという形を取れます。
さて、これら3つの学び方には、それぞれメリットとデメリットがあります。人材育成において、「どんな力をどのように身に付けていくか」を考えるうえでは、それぞれのメリット/デメリットを踏まえて最適な手段を考えていきましょう。
そもそも、人はどのような過程を経て成長していくかというと、次図のとおりです。まず「一般論・原則」として基礎知識を身に付けます。それから、各現場での仕事経験を通じて「実践知」を得ます。そして、実践したことをまた「一般論・原則」に照らして整理し直し、現場に戻ってさらなる「実践知」を積んでいく。このように、一般論・原則と実践知の間を交互に行ったり来たりしながら力を付けていきます。
つまり、育成体系を網羅的に考えるうえでは自己研鑽、Off-JT、OJTの3つの観点すべてを漏らさず整備していくことが重要ということです。これを踏まえて、それぞれのメリット/デメリットをまとめてみます。
「自己研鑽」のための教科書や参考書
- ● メリット体系化・言語化されており分かりやすい。思考の整理や学び直しに向いている
- ● デメリットあくまで一般論や原理原則なので、ここで学んだことが現場でそのまま使えるわけではない
「Off-JT」としての研修
- ● メリットその会社や現場に最適化されたナレッジ・ノウハウを体系的かつ一堂に会して学べる。参加者同士のディスカッションで新たな気づきを得る機会にもなる。キャリアの節目として経験の振り返りを促す効果もある
- ● デメリット自社で研修企画する場合、現業とは別に相応の準備負担がかかる
「OJT」としての現場の実践経験
- ● メリットすでにその現場に最適な形となっているため、応用的ですぐに活かせる
- ● デメリット現場の暗黙知として“語らず先輩の背中を見て学ぶもの”は言語化されておらず、再現性が低い。またそのやり方が本当に最適かは検証されにくい
ちなみに、Off-JTとしての研修には、社内で内製化して行う研修と、社外でパッケージ化されている研修に参加する2パターンがありますが、私は研修の上手な活用方法を「原理原則的な基礎知識と現場での実践知の“間”を埋めるためのもの」と考えているため、ここでは前者の、社内で内製化して行う研修のメリット/デメリットを挙げています。パッケージ化された外部研修に参加して学ぶのは、どちらかというと自己研鑽に当たるかもしれません。