企業の中での育成方法は研修だけではない
企業の人事部門の中にある教育・育成チームを見てみると、「育成=研修」という捉え方がされていることが少なくありません。そこで実際に行われているのは、新入社員研修や階層別研修の年間計画を立て、研修内容を企画し、自社の社員もしくは外部講師に研修登壇を依頼して、あとはひたすら実施していくというような流れ。これでは、教育・育成チームというよりも、むしろ「研修チーム」となってしまっています。
人材育成を考えたとき、研修はたしかに1つの育成手段ではあります。しかし、人を成長させるのは実際の経験が7割、上司など尊敬する人からの薫陶が2割、残りの1割が研修などのコースワークであるといわれており、研修のみで十分な人材育成ができているとはいえません。
では、そもそも企業の人材育成は何から考えていけばよいのでしょうか。
人材育成のフレームワークをつくる
まず、人材育成におけるフレームワーク、つまりその企業の育成の方向性を決める“枠組み”からつくることをおススメします。研修はあくまで、そのフレームワーク上で実施される育成手段の1つという位置付けです。
フレームワークづくりは以下の4つのステップで考えていきます。
①組織の戦略やビジョンに一致した人材要件を決める
「組織は戦略に従う」という言葉のとおり、事業戦略上どういった人材が必要となるのかを考えることがファーストステップです。あるいは、組織が掲げるビジョンやミッションをベースに求める人材を決めることもあります。
経営の観点からみれば、育成は事業やミッション達成のための手段です。
その意味で、「私たちはどこを目指して人材育成するのか」というのは、その後の取り組みを決めるうえでの“北極星”になります。そして、この組織の戦略やビジョンに一致した人材要件というのは、育成の最終到達点を示しています(成長段階の最終形のイメージです)。
ちなみに、ここで挙げた求める人材の必要能力すべてを入社後に育成する必要はありません。たとえば、人間の知能は10歳代後半から20歳代前半にピークを迎えてその後低下していく「流動性知能」と、20歳代以降も上昇し高齢になっても安定する「結晶化知能」に分かれます。流動性知能とは、たとえば「直観力」「法則を発見する力」「処理スピード」「図形処理能力」などです。結晶性知能には「言語能力」「理解力」「創造性」「コミュニケーション力」などが挙げられます。ここから、流動性知能にあたる人材要件は採用基準とし、結晶化知能にあたるものは育成要件にするのもよいでしょう。
②育成のラダーをつくる
組織の戦略やビジョンに一致した人材要件を育成の最終到達点としたとき、入社間もない新人が一足飛びでそこに到達するのはもちろん難しいです。そのため、1つひとつ上っていくラダー(はしご)[1]をつくります。たとえば「新人」→「一人立ち」→「一人前」→「中堅」→「ベテラン」→「達人級」といった具合です。
注
[1]: これは「キャリアラダー」「キャリアパス」「キャリアトラック」など、企業によってさまざまな呼び方がされていますが、ここでは「ラダー」と統一して表現します。
ラダーが明確にあることで、社員は文字どおりはしごを1歩1歩上っていっている感覚、つまり組織内での成長実感を得ることができますし、「次を目指して頑張ろう!」とモチベーションにつながります。
一方でキャリアには、主観的に高止まりしている状態「プラトー(高原)」があります。今やっていることをある程度マスターし、他に学ぶことがなく退屈している状態ともいえるでしょう。プラトー状態の社員は、おのずと外にあるもっと楽しそうな世界に移ろうと考えます。そういった意図しない社員の離職を防ぐためにも、成長の目標を示すラダーが重要になるのです。
また、ラダーを等級制度とひもづける企業がありますが、新人期間は入社~6ヵ月間くらい、一人前になるのは入社3年~4年くらいと、想定平均年数を合わせて設定するのもよいです。「勤続何年のこの社員はラダーのこの段階にいるはずだが、実際にはどの段階にいるか」といった、想定と実態のギャップを確認できるからです(もちろん中途入社組はこの限りではありません)。
ちなみに、ラダーを1本にする必要はありません。「自分はゆくゆくこの道のスペシャリストになりたい」という人もいれば、「将来はマネージャーになって経営を支えたい」という人もいます。その人のキャリア志向に合わせて選べるよう、ラダーを複数本用意しておくのも手ではあります。