パーソルキャリアは、同社が運営する転職サービス「doda」において、20~60歳代のビジネスパーソン1000名と企業の人事担当者500名を対象に「残業」をテーマとした調査を実施。その結果について、以下のように発表した。
残業の上限規制の現状
企業に対し残業の上限規制の現状について確認したところ、全体の70.4%が残業削減に課題感を持っていた。業種別では、上位から「メーカー(74.8%)」「IT・通信(72.4%)」「運輸・物流(69.7%)」と並ぶ(図1[1])。
次いで、直近1年間に取った残業削減対策の有無を尋ねると、「取っている」と回答した企業は全体で70.2%に上った。業種別で見ると、「運輸・物流」が最も高い割合(78.8%)を示す結果に。「運輸・物流」は、残業時間の上限規制の適用猶予を受けており、2024年4月から適用が開始される。そのため、とくに喫緊の課題として企業割合が高まったと考えられる(図2[2])。
さらに、「今後残業削減のための対策をとる予定がある、検討している」と回答した企業も計78.0%となり[3]、対策内容は上位から「労働時間の可視化(63.4%)」「業務効率化のためのツール導入(50.7%)」「人員の確保(49.3%)」と続いた[4]。
残業の上限規制を受け、業務効率化のためのDX推進、社員の定着率向上に向けた就業環境改善、新規採用活動の活性化も加速することが考えられる。
注
[1]: 全業種分類:IT・通信、メディア、金融、メディカル、メーカー、商社、小売、運輸・物流、レジャー・外食、エネルギー、建設、不動産、コンサルティング、人材サービス、その他
[2]: 全業種分類:IT・通信、メディア、金融、メディカル、メーカー、商社、小売、運輸・物流、レジャー・外食、エネルギー、建設、不動産、コンサルティング、人材サービス、その他
[3]: 全回答:「予定がある(42.6%)」「検討している(35.4%)」「予定はない(22.0%)」。n=500、単一回答。
[4]: 4位以降の回答:事前申請制の導入(43.7%)、ノー残業デーの導入(43.7%)、オフィス一斉消灯(15.5%)、PC自動シャットダウン(12.2%)、残業時間の上限アラートメール発信_本人・上長宛て(11.3%)。n=213、複数回答。
個人の残業実態と捉え方
次に個人へ、時間外労働の割増賃金率の引き上げが始まった2023年4月を起点に、4月以前と以後(12月まで)の残業時間(月平均)を比較し、どのように変化したかを尋ねた。
結果からは、「変わらないと思う」の回答が最も多く68.6%となり、「減ったと思う」の回答は計18.7%にとどまった[5]。具体的な残業時間では、2023年4月以前の平均は「14.8時間」、4月以降が「14.5時間」と差分は-0.3時間になることが明らかに(図3)。最も残業時間が減ったのは「メーカー」となり-1.1時間。一方、「運輸・物流」は-0.2時間となった。
7割の企業で残業削減のため対策を講じている様子が見られたが(図2)、残業時間の減少傾向は低く推移しているようだ。
注
[5]: 全回答:「とても減ったと思う(5.6%)」「減ったと思う(6.0%)」「やや減ったと思う(7.1%)」「変わらないと思う(68.6%)」「やや増えたと思う(7.3%)」「増えたと思う(3.3%)」「とても増えたと思う(2.0%)」。n=885、単一回答。
また、個人に対し残業を行う理由を尋ねたところ、「業務が終わらないため(75.3%)」が2位を大きく引き離し最上位となった。20代~60代のどの年代においても、7割以上が同様の回答をしている(図4)。
この結果には、業務量と労働力の不均衡さが表れている。最新のdoda転職求人倍率レポート[6]からも人材不足が読み取れる(図5)。そのため、1人当たりの業務負担が大きくなることで、残業が発生する構造が見て取れる。これは、7割の企業が残業削減の対策を取っているにもかかわらず(図2)、残業時間にほぼ変化が見られない要因の1つといえるだろう。
また、年代別回答からは、20代の「残業代を得るため」の回答割合は約半数(47.8%)となり、全体平均より約15ポイント高い結果に。その他、残業する理由には年代によって変化が見られた(図4)。
併せて、出勤前や退勤後、または休日など、申告を行っていない、または申告よりも長く働く「隠れ残業」の実態を確認した。
「隠れ残業」を行ったことがある個人は26.3%で、実施する理由は図4の残業理由と近しい「労働時間と業務量があっていないため」が41.4%で最多に。また、年代ごとに確認すると、20代は「隠れ残業が職場の文化として習慣化しているため」、30代は「評価する風潮があるため」、40代は「残業の申請が面倒なため」といった理由が、全体平均より10ポイント以上高い結果を示した(図6)。
個人の残業実態をひも解いてみると、残業はシンプルな業務量と人的リソースの不均衡さに加え、長時間労働が評価されやすい風土、また賃金上昇を求める経済的理由からも発生していると推測できる。どちらも、対策成果が早急に表れづらく、対策を講じる企業割合に対して残業の減少幅が小さい背景の1つとうかがえる(図4・図6)。
最後に、残業時間の多さをきっかけに転職を考えるかを尋ねたところ、計55.5%が「考える(考える 18.9%、やや考える 36.6%)」と回答した(図7)。とくに20代・30代で顕著となっており、20代(計62.0%)、30代(計65.0%)と60%を超える結果が見られた。
残業の多さを理由に転職を考える理由としては、「ワークライフバランスが崩れるから」「体に負担が多いから」「残業がある会社は人手が足りない。人手が足りない会社は財政が良くないから」など、ワークライフバランスや自身のヘルスケア、会社へのロイヤリティ観点の声が寄せられた。
転職を考える残業時間は、「40~60時間未満(12.9%)」が一番多く、次いで「10~20時間未満(11.5%)」が並んだ。「10~20時間未満」は、図3で示した平均残業時間「14.5時間」が含まれる回答分類。平均的な時間であっても、転職検討のきっかけになることが分かる。
一方で、「残業がない」も18.0%と高い割合を示した。図4の結果のとおり、残業代を賃金の一部と考え、まったく得られないことへの懸念もうかがえる(図8)。
なお、同調査の概要は次のとおり。
- 個人対象者全国の従業員規模10名以上の企業ではたらく20~60歳代男女、会社員(正社員・契約社員)※人事担当、取締役相当、代表取締役・社長相当、その他管理職、管理職ではないが管理職相当を除く
- 集計対象数1000名(性年代均等割付)
- 企業対象者全国の従業員規模10名以上の企業ではたらく20~60歳代の人事担当者
- 集計対象数500名
- 調査手法 インターネット調査
- 調査期間 2023年12月28日~2024年1月5日
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