田中 弦(たなか ゆづる)氏
Unipos株式会社 代表取締役社長CEO
1999年ソフトバンク株式会社 インターネット部門一期生としてネット産業黎明期を経験。経営コンサルティングファーム・コーポレイトディレクション(CDI)にて事業立ち上げ支援や戦略策定に関わる。その後ネットエイジグループ(現ユナイテッド社)執行役員。2005年Fringe81株式会社を創業。独立後2017年東証マザーズ上場。同年Uniposのサービス開始。2021年10月にUnipos株式会社に社名変更し、個人の人的資本を発見し組織的人的資本に変えるUniposの提供を中心に活動。「人的資本経営専門家」として経営戦略と人事戦略を紐づけるための「人的資本経営フレームワーク(田中弦モデル)」の公開人的資本開示を読んで導き出した独自の見解を発信。メディアへの出演多数。『心理的安全性を高める リーダーの声かけベスト100』(ダイヤモンド社)著者。
本記事の各情報は2024年1月17日開催時点のものです。
2023年度の統合報告書の開示充実度は1.89点
2023年度(2023年12月まで)の統合報告書898社を読了した田中氏は、その所感を次のように述べた。
「ひとことで言うと、人的資本開示の状況はますます『二極化』したなと感じます。統合報告書の充実度を5段階で独自に評価した結果、平均点は1.89(5点満点)。経営戦略と人材戦略がどのように結び付いているかが分かれ目となり、企業間で開示内容に格差が見られました。そして開示に積極的な企業は、人的資本経営の実践に向けてすでにシフトしており、新たなベストプラクティスが登場しています」(田中氏)
そもそも人的資本経営が注目される理由は、「個人の持つ人的資本(スキル・ノウハウ)を十分に発揮するための土台を再構築し、サステナブルな競争力を創出するため」である。その裏側にあるのは、日本企業の終身雇用制度による弊害だ。同制度の下、日本では長年にわたり企業が従業員の人事権を保持・行使してきたため、「人に投資しない・学ばないランキング 先進国で1位」のような状態を生み出してしまった。
そこで日本企業には人的資本経営に取り組み、経営の意思や結果を開示することが期待されるが、実際には開示自体が目的となってしまうケースも少なくない。田中氏は人的資本経営や開示におけるさらなる課題を指摘した。
「担当者は開示対応に追われ、かつ複数部署で横断して調整する必要があるため、業界の競合のみを参考にし、開示しやすい項目や見栄えの良い事項の開示になりがちです。その結果、すべての企業が「わが社、最高」をうたうのみで差別化できていません。人事施策を並べて解説することが開示の中心では、企業価値向上につながらない可能性が高まります。こうした負のスパイラルを解消しなければなりません」(田中氏)
のべ5000社の人的資本開示を分析し、人的資本経営のベストプラクティスを9つのモデルに分類した田中氏は、「今回紹介する事例を参考に、人的資本開示の学習速度を高めてほしい」と語る。9つのモデルは次図のとおりだ。
ここから話は、9つの各モデルの解説と、それに該当する開示例の紹介へと進んでいく。