Zoomがコアバリューの再定義に挑んだ理由とは
——まず、貴社のコアバリューについて教えてください。
私たちはコアバリューとして「ケア(配慮)」を掲げています。その対象は、「顧客」「会社」「コミュニティ」「チームメイト」「自分自身」の5つです。これらをしっかりとケアすることで、他社との差別化につながり、Zoomのビジネスを健全に保ち、成長へ導けると考えています。
——マシューさんが入社された2022年6月当時、Zoomにおいてコアバリューはどのような存在だったのでしょうか。
ケアというコアバリューは、エリック・ユアンがZoomを創業した2011年から変わっておらず、私たちにとって非常に大切な価値観でした。しかし当時、このコアバリューを再定義しようという機運は高まっていました。
コアバリューを策定してから10年以上が経っていましたし、もともとは2000人ほどだった従業員が、コロナ禍を通じて一気に8000人近くにまで増えていたからです。新しく入ったメンバーからは、「ケアの概念は理解しているけれど、Zoomのメンバーとして働く中で、どう体現すればよいのか分からない」という声が上がっていました。
会社の文化というのは、庭のようなものだと思います。庭は放っておいてもさまざまな草花が育ちますが、自分が育てたい植物を育てるには、しっかりと手入れをする必要があります。会社の文化もそれと同じで、理想的な文化にするためには、定常的に手をかけ続けなければなりません。
そこで、コアバリューの再定義に取り組みはじめたのです。
約8000人の従業員に向けたコアバリュー浸透施策
——コアバリューの再定義とは、コアバリューそのものを見直すことではなく、コアバリューをあらためて浸透させるための取り組みということですね。
そうです。まず私たちはアンケートを取り、現場の従業員やマネージャー、シニアリーダーたちの声に耳を傾けました。「ケアというコアバリューは、あなたにとってどういう意味を持っていますか?」と。
また、人事部門に関しても、人事のあらゆるプロセスを体系的に見直し、どこでケアを体現できているのかを、すべて洗い出しました。たとえば、採用面接のときに、コアバリューに関する質問をしているのか。リーダーシップとして求める能力の中にケアに関する項目がちゃんと入っているのか。チームメイトの中でケアを体現できている人を、ちゃんと表彰する制度はあるのか、といった点です。
こうして、従業員がコアバリューを再定義する過程に関われるようにしたことで、コアバリューがグローバルで浸透している状態に近づきました。
——働く国や言葉が異なる8000人もの従業員がいると、コアバリューを浸透させる難易度は非常に高かったのではないでしょうか。
施策自体に特に激しい反発はなく、CPOとして大きな壁は感じませんでした。一方で、コアバリューは、言葉にするのは簡単ですが、それを体現するのははるかに難しいものです。
従業員がコアバリューを行動として表そうとするとき、どうしてもトレードオフになって判断に迷うことがありますよね。たとえば、「お客様のケアを優先すると、会社のケアにならないときに、どう判断するのか」「予算を減らさなければならないけれど、そうするとチームメイトのケアにならないのではないか」といったケースです。
このような難しい判断を迫られるときこそ、コアバリューを文化として根付かせるチャンスと受け止め、しっかりと意思決定のフレームワークを説明することが重要だと感じました。
他には、日々の業務でコアバリューを思い出して、互いに行動を強化し合うために全社員に「WE CARE FOR ○○」と記した5色のピンバッジを配布したのも、ユニークな施策の1つです。