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人事労務事件簿 | #47

児童家族のカスハラに教諭を謝罪させた行為は校長のパワハラと判断(甲府地裁 平成30年11月13日)

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 近年注目されている「カスタマーハラスメント(カスハラ)」。教育の現場では保護者などからの不当なクレームも、その1つに挙げられるようです。今回紹介する事案は、児童の家族からカスハラといえるクレームに対し、安易な解決を図ろうと、むしろ被害者である教諭に膝をつかせて謝罪させた校長の行為を、裁判所がパワーハラスメント(パワハラ)と判断したものです。厚生労働省がカスハラから社員を保護する対策を企業に義務付けることを検討している現在、一般企業も取り組みを始めるべきでしょう。

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1. 事件の概要

 本件は、小学校教諭である原告(以下「X」)が、平成24年度に勤務していた甲府市立A1小学校(以下「A1小」)のC校長(以下「C校長」)からパワハラを受けてうつ病に罹患および休業し、精神的苦痛を受けたなどと主張して、被告甲府市および山梨県に対して損害賠償等を請求した事案です。

 今回は数ある争点の中から、犬に咬(か)まれたことをきっかけとし、児童の家族とトラブルになった事案について取り上げます。

(1)当事者等

 X(昭和35年生まれ)は、昭和58年4月1日に山梨県公立小学校の教諭に採用され、平成23年4月1日にA1小に赴任し、平成24年4月1日から6学年の学級担任を務めていました。

 C校長は平成24年4月1日に校長として採用され、A1小に赴任し、平成26年3月まで同校の校長でした。

(2)犬咬み事故の発生

 Xは、平成24年8月26日、A1小の校区内であるB地区で実施される地域防災訓練に参加するため、訓練会場に向かう途中、自身が担任する学級に所属する女子児童(以下「本件児童」)を訪問しようとしました。

 その住居(以下「本件児童宅」)に立ち寄ったところ、本件児童宅の庭において飼育されている甲斐犬(以下「本件犬」)に咬まれ、約2週間の加療を要する傷害を負いました(以下、この事故を「犬咬み事故」という)。

(3)保険のことを児童の家族に相談

 Xは8月27日、前日に受診したクリニックを再度受診したところ、H1医師から、犬を飼っている家では犬が他人に危害を加えた場合に適用される傷害保険やペット保険に加入していることが多いから、保険加入の有無を聞いてみたらどうかという趣旨の助言を受けました。

 そこでXは、同日夜、電話で本件児童の母に対し、「賠償保険という保険に入っていたら、使わせていただきたい」などと話しました。

 本件児童の母は、保険の加入の有無を確認すると返答し、その後、Xに電話をかけてきて、保険には入っていないと答え、治療費はいくらかかったかを尋ねました。

 Xは、保険に入っていないのであれば、犬咬み事故については仕方がないと思いました。

 また、Xは、今後同じような事故が起きた場合の備えとして、本件児童の母方の祖父が旅行会社を経営していて保険に詳しいと思い、「そうした保険のことについてご相談なさってみてはいかがでしょうか」などと話した。

 本件児童の父母は、翌8月28日の夜、X宅を訪れ、犬咬み事故について謝罪するとともに、治療費を支払わせてほしいと申し出ましたが、Xは気持ちだけで十分であるとして、これを辞退しました。

 原告の妻(以下「花子」)は、本件児童の父母に対し、帰り際に話をしました。

 花子は、「主人は学校教員でもありますし、けがをしたからといって普通の人のように怒ったり、何とかというようなことじゃなくて、教育的なことの中で、言いたいことも言えないんですけども、そういうことはご理解いただきたい」と言いました。

 本件児童の父母は、花子の言葉について、犬咬み事故のような事故の場合、普通は補償をするものだという趣旨と捉えました。

(4)C校長への報告

 翌8月29日の朝、Xは、C校長に、犬咬み事故について、前日の夜に本件児童の父母がX宅を謝罪のために訪れ、円満に解決した旨報告し、C校長の指示により、職員の打ち合わせの場でもその旨の報告をしました。

 同日午後、C校長は、本件児童の父から電話を受け、「犬咬み事故について、昨夜はXとの間で犬咬み事故の補償は不要ということで話が収まったが、Xがまだ補償を求めており、妻(Xの本件児童の母)に対する電話での話も脅迫めいている。C校長を交えてXと話がしたい」と言われました。

 そこでC校長は、Xに対し、犬咬み事故発生か前夜までの経緯をまとめた書面を作成するよう指示しました。

 Xは、本件児童の父母とのやり取りを報告書にまとめ、C校長に提出しました。

 この報告書には、Xが本件児童の母に対し、電話で、「賠償責任というような保険に入っていたら、使っていただきたい。そうすれば、保険屋さんと話ができます」と話したこと、Xが本件児童の母から保険には入っていないと言われ、「入っていなければ、しかたがないのですが、Pさん(Xが本件児童の母)の親御さんでしたか、Q観光さんはそういうことに詳しいと思います。ご相談なさってみてはいかがでしょうか」と話したことが記載されていました。

 C校長は報告書を読み、Xに対し、Xが本件児童の母に対して「賠償」という言葉を使ったこと、本件児童の祖父を引き合いに出して保険の話をしたことを非難しました。

 Xは、C校長に対し、「このプリントを相手に見せて、私も同席するのですか」などと聞いたところ、「当たり前だ」と言われました。

(5)本件児童の父と祖父との面談

 本件児童の父と祖父は、同日午後5時30分頃、A1小を訪れ、校長室において、C校長およびXと面談しました。

 本件児童の父と祖父は、C校長およびXに対し、前夜にX宅を訪問した際、帰り際に花子から、「そうはいっても補償はありますよね」などと言われ、その口調や態度等から脅迫されていると感じ、本件児童の母が、怖くて外に出られず床に伏せっている、などと言いました。

 本件児童の祖父は、その日の朝に話を聞いたが、「白黒をしっかりつけたいと思って婿と来た」などと言い、C校長から見せられた報告書に「賠償」という言葉が記載されていることについて、「地域の人に教師が損害賠償を求めるとは何事か」などと言って、Xを非難しました。

 そしてXに対し、「強い言葉を娘に言ったことを謝ってほしい」などとして謝罪を求め、本件児童の父も同調しました。

 本件児童の祖父は、犬咬み事故の賠償の件については「金は払う」などと言いましたが、Xは、前日に父母から謝罪を受けて解決しているとして、「それは受け取れません」などと述べました。

 C校長は、Xの本件児童の母に対する発言に行き過ぎた言葉があったとして、Xに対して、本件児童の父と祖父に謝罪するよう求めました。

 Xは、ソファから腰を降ろし、床に膝を着き、頭を下げて謝罪しました。これはつらい思いとなりました。

 C校長は、本件児童の父と祖父が帰った後、Xに対し、「会ってもらえなくとも、明朝行って謝ってこい」と言い、翌日に本件児童宅を訪問し、本件児童の母に謝罪するよう指示しました。

 花子は、帰宅したXからこのことを聞き、Xの携帯電話でC校長に電話をかけて、「どうして、Xが謝りに行かなければならないのですか」などと抗議しました。

(6)犬咬み事故後の経過

 Xは、犬咬み事故の4日後である平成24年8月30日、Iクリニックを受診し、I医師からうつ病と診断されました。

 Xは、同年8月30日以降、年次有給休暇を2日取得した後、同年9月4日から平成25年3月2日までの180日間、傷病休暇を取得し、同月3日から同月31日までの間、休職しました。

 Xは、同年4月1日から甲府市立A2小学校に異動し、通常勤務に復帰しました。

(7)本件訴訟に至る経緯

 Xは、平成25年1月31日付で、地方公務員災害補償基金(以下「基金」)山梨県支部長(以下、基金山梨県支部を「基金支部」、基金山梨県支部長を「基金支部長」)に対し、うつ病の罹患が公務に起因するとし、地方公務員災害補償法に基づく公務災害認定請求をしました。

 また、犬咬み事故が公務に起因するとして、これについても公務災害認定請求をしました。

 Xは、平成27年5月22日、本件訴訟を提起しました。

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この記事の著者

坂本 直紀(サカモト ナオキ)

人事コンサルタント、特定社会保険労務士、中小企業診断士、坂本直紀社会保険労務士代表社員。就業規則作成・改訂、賃金制度構築、メンタルヘルス・ハラスメント対策社内研修などを実施し、会社および社員の活力と安心のサポートを理念として、コンサルティングを行う。 ホームページに多数の人事労務管理に関する情報、規定例、...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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