将来の役職者候補を発掘する「タレント会議」
——まず御社の組織階層を確認させてください。部長、課長といった呼称ではないようですね。
上から順に、CxO、VP、Director、Manager、Chiefとなっています。一般的な組織階層に当てはめると、VPが統括本部長・事業本部長、Directorが本部長・事業部長、Managerが部長、Chiefが課長となります。
——改めて、タレント会議とはどのような会議か教えてください。
タレント会議には「VP/Director候補編」と「Manager候補編」があります。VP/Director候補編では、すべてのCxOとVP十数名がオフラインで集まり、事前に用意されたタレント(候補者)リストをもとに、誰がVPやDirectorになり得るのか、5時間半かけてディスカッションしました。タレントは何年以内にVPやDirectorを任せられそうかによって、ABCの3段階で分けています。タレントAは1年以内、タレントBは3年以内、タレントCは5年以内と定義しています。
Manager候補編は、管掌しているVPとDirector、Managerがオフラインで集まり、同様のことを行っています。ただタレントの基準は少し違っていて、タレントAは1年以内、タレントBは2年以内、タレントCは3年以内という定義で、Manager候補を選抜していきました。Manager候補編は全社まとめてではなく、部門ごとに行っています。
未来志向で考えることを大切にしているので、VP候補は現在のDirectorの中からだけ、Manager候補は現在のChiefの中からだけ、といった制約はしていません。弊社の場合、3年前に比べると従業員数は3倍以上に増えていますし、5年もあればメンバーからVPになる可能性が普通にありますから。
——タレント会議は、いつから、なぜ始めたのですか。
第1回は2024年3月に開催しました。第2回は11月に行う予定[1]で、今後は年に2回のペースで実施していきます。
注
[1]: 本記事の取材は2024年10月31日に行った。
昨今、人的資本経営の文脈で「経営戦略と人事戦略の連動」と盛んにいわれていますが、僕は連動ではなく“一体化”が大切だと思っているんです。
弊社では経営戦略として「マルチプロダクト戦略」を掲げており、祖業の労務だけでなく、タレントマネジメントを推進するLMS(学習管理システム)や採用管理など、新しいプロダクトをどんどん増やしているところですし、新規事業もつくっていかなければなりません。そして、これらの戦略を推進するのはヒトです。人事として経営戦略を推進できる人材をまずは定義して、それに該当する人材を採用・育成・登用していく必要があります。
これまではスタートアップ企業ということで採用、特に即戦力となる中途採用に力を入れていました。正直なところ、育成のマインドは弱かった。しかし、従業員数が1000人を超えた現在、マネジメント人材の確保に向けた育成のマインド醸成と経営者候補の発掘が喫緊の課題となっています。
その課題を解消するための一手として始めたのがタレント会議であり、まずは人材の可視化に着手したというわけです。
——「○年後にタレントになり得るかどうか」をどのように判断されているのでしょうか。VP/Director候補編とManager候補編それぞれの選考基準を教えてください。
1つは業績。成果を上げているのが大前提です。もう1つは、私たちの求める人材像に当てはまっているかどうか。現時点でできていなくても、このポテンシャルがあるかどうかでノミネートしてもらいました。
——未来志向でポテンシャルを見極めるのは、タレントマネジメントを行ううえで大切なことだと思います。その一方、選考する人によって精度が変わってしまう懸念もあると思うのですが。
そうですね。だからこそタレント会議というオフラインの場を設け、全員で膝を突き合わせながら検討することを大事にしています。たとえば、あるVPが「▲▲さんがオススメです」と言ったら、他の人たちが「本当にそうなのか」「この観点ではどうなのか」とツッコミを入れていく。それに対してVPがきちんと説明し、他の人たちを納得できたらタレントとして認められる。こうした手順を踏むことで、選考の平準化を図っています。
一方で、私は属人化してもよいとも思っているんですね。直感って意外と大切なので。直感でもよいけれど、その直感を推薦者であるVPがしっかりと言語化し、説明できる必要はある。ある意味、タレント会議はVPの育成の場にもなっているんですよ。ちゃんと説明できないということは、そのVPは部下をしっかり見ていないことになりますから。逆に、納得感のある説明で、たくさんの候補者を挙げているVPがいたら、「おっ、やるな」と一目置かれることになる。そうして経営陣の中でも刺激を受け合って、育成マインドの醸成や人材開発につなげていけたら、という狙いがあります。