社員の成長を支える「あなた」は、自分の成長を実感できていますか
本書はまず、このような問いから始まります。
- 社員のウェルビーイング向上を担当する「あなた」は、自分自身のウェルビーイングを高く保てているのだろうか?
- 社員の成長を支援している「あなた」は、自分自信も成長を実感しながら仕事をしているのだろうか?
- 社員のキャリア自律を支援している「あなた」は、自分自身も主体的にキャリア形成に取り組んでいるのだろうか? (p.7)
いつもは自分以外の成長や働きがい、キャリアなどに向き合っている人事パーソン。しかし、いざ同じまなざしを自分に向けられると、戸惑ってしまう方は多いのではないでしょうか。
今回紹介するこの『シン・人事の大研究——人事パーソンの学びとキャリアを科学する』(田中聡、中原淳、『日本の人事部』編集部(著)/ダイヤモンド社)は、そんな方にこそ読んでほしい1冊です。
本書の主役は、人事部門でなく、あくまでも人事パーソン。人と組織の課題解決に向けて人事部門で働く人々だと強調されています。なぜなら、人と組織の課題解決に動くのは“人事”という概念でなく、人事パーソン1人ひとりだから。そして、人と組織の課題が増え続け、企業における人事の重要性が高まる時代の主役であるからだといいます。
これからは、人事パーソン一人ひとりが活躍を求められる時代、すなわち「人事パーソンの時代」なのです。(p.18)
本書では、そんな人事パーソンの「仕事論」「学び論」「キャリア論」を、さまざまな調査結果やインタビューを基に探ります。
8割以上の人事パーソンが「ずっと人事を続けたい」
注目したいのが、著者である田中聡氏、中原淳氏、『日本の人事部』編集部による「人事パーソン全国実態調査」にて判明した、「人事の8割以上が人事を続けたい」という事実。本調査と比較するために実施された「一般ビジネスパーソン調査」では、「今の仕事を続けたい」と回答した割合は約6割だといいますから、他の職種と比べても、人事パーソンは人事という仕事を好きであり、“天職”だと感じていることが分かります。
第1章では、人事の仕事の特徴を、常に新しい課題に追われる「新規課題沼」、仕事の終わりが見えない「エンドレスワーク」、仕事柄孤独になりがちな「社内ぼっち」の3つにまとめ、特に後者2つは職務ストレスに影響していることを明らかにしています。
それにもかかわらず、人事パーソンのワークエンゲージメントが高く、今の仕事を続けたいと考える人が多いのは、人事の仕事に「会社や事業への貢献できる」「従業員の成長をサポートできる」といったやりがいがあるからでしょう。
人事の「専門性」とはなにか、捉えなおそう
続く第2章では、人事パーソンの学び論として、人事業務全般に共通して身に付けられる3つの「専門性」を解説しています。注意すべきは、一般的にイメージされる汎用的かつ不変的なスキルとは異なること。人事の専門性とは、会社や国と切っても切り離せず、常にアップデートし続けなければならないことを念頭に置く必要があるといいます。
私たちが「専門性イリュージョン」と呼んでいる幻想を超え、「真の専門家」として成長するためには、人事領域で流行しているバズワードに踊らされず、また専門性という言葉に惑わされずに、目の前の変化を受け入れ、自分自身の成長に深くコミットし、学び続けることが重要なのです。(p.132)
本章の最後には、自分の学ぶ環境や姿勢を振り替える「チェックシート」や、先人たちの実践・理論を学べるおすすめの書籍(48冊も!)が紹介されているのもうれしいポイント。「学ぶための具体的なアクションが分からない」「何から手を付けたらよいか分からない」という方も、きっと1歩目を踏み出せます。
これからも人事を続けていく、「あなた」のための1冊
最後となる第3章のテーマは、人事パーソンのキャリア論です。実態調査にて、人事パーソンのキャリアには、「迷走する若手期」「上昇気流に乗る中堅期」「停滞感を抱くベテラン期」の3つのアップダウン(キャリア充実度による高低)が訪れることが明らかになりました。この若手とベテランのダウン期をどう乗り越え、また中堅期の“上昇気流”をどう乗りこなすべきなのか。今まさにその時期にいると感じている方はもちろん、今後迎えるベテラン期に備えるためにも、必読の章です。
人事として長く働きたいと願う方が多いからこそ、人事パーソン自身の学びやキャリアについて考える必要性を提起した本書。人事を対象とした、組織や社員について考える書籍は数多く出版されている中、たまには、自分自身のために書かれた本を手に取ってみるのはいかがでしょうか。