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人事労務事件簿 | #53

総合職のみ利用可能な社宅制度を間接差別であり違法と判断 その根拠とは(東京地裁 令和6年5月13日)

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 「間接差別」とは、直接的に性別による差別を行っているのでなくても、実質的に性別による差別が起こっている場合をいいます。今回紹介する事案では、男性がほとんどを占める総合職にのみ提供される住宅手当が、女性がほとんどを占める一般職から見た場合に間接差別に当たると裁判所は判断しました。裁判所は間接差別かどうかの判断をどのような根拠で下したのでしょうか。差別をしているわけではないが実質的に差別であり、違法とされるケースがあることを本事案から学びましょう。

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1. 事件の概要

 本件は、被告(以下「Y社」)の女性従業員である原告(以下「X」)が、Y社に対して、総合職に対してのみ社宅制度の利用を認めていたことが、男女雇用機会均等法(以下「均等法」)等に違反すると主張した事案です。

 今回は、さまざまな争点の中から均等法に関する間接差別について取り上げます。

(1)当事者等

 Y社は、A株式会社が取り扱っていた農業ハウス用フッ素フィルム「エフクリーン」の販売事業を、B株式会社(以下「B社」)が買収したことに伴い、同事業を運営するための100%子会社として、平成11年6月23日に設立された株式会社です。

 Y社は、本社を東京都に置き、東日本営業所、中日本営業所、西日本営業所を有しています。

 Xは、昭和54年生まれの独身女性であり、短期大学を卒業後、平成20年4月から紹介予定派遣でY社の管理室で勤務した後、同年7月ごろにY社に正社員として採用され、現在まで管理室での業務に従事しています。

(2)総合職と一般職

 総合職と一般職の区分については、平成12年8月1日制定のY社給与規程2条において、次の定義がなされていました。

  • この規程において総合職とは、会社の命ずる任地に赴任することが可能であり、その任地での業務を円滑に遂行できる能力があると認められる職能をいう。
  • この規程において一般職とは、前項以外の職能をいう。

 その後、平成27年4月1日の就業規則改定により、期間の定めのない従業員につき、総合職と一般職の区分が設けられました。

 総合職は、Y社の命ずる任地に赴任することが可能であり、職能ランク基準に相応する専門知識を基礎とした総合的な判断能力を発揮し、非定型で幅のある業務を円滑に遂行する能力があると認められる者としました。

 一般職は、一般事務等の定型的、補助的な業務に従事する職種であり、就業場所に異動がない者と定義されています。

(3)総合職と社宅制度の状況

 総合職に位置付けられる従業員は、本社勤務の管理職数名の他は、各営業所に勤務する営業職が多数を占めています。

 社宅制度に関する社宅管理規程の定めは、当初はY社が命ずる任地への通勤が困難と認められ、転居することとなった総合職を対象とするものでした。

 しかし、平成23年7月以降は、適用対象が転勤に関する事情と無関係な場合にも拡大されました。

 そして、平成30年3月16日の改定により、社宅管理規程上も、通勤圏に自宅を保有しない60歳未満の総合職に対しても、Y社が必要と認めた場合に社宅制度の適用がある旨が明確にされました。

 なお、Y社が総合職からの社宅制度適用の申し出を許可しなかった例は、存在しません。

(4)総合職と一般職の状況

 Y社では、設立時(平成20年)から令和2年までの間、毎年4月時点での「総合職」「一般職」の男女別の人数が次表のように推移しています。

平成20年 総合職(男性15名)、一般職(女性4名)
平成21年 総合職(男性15名)、一般職(女性3名)
平成22年 総合職(男性16名)、一般職(女性3名)
平成23年 総合職(男性16名)、一般職(女性3名)
平成24年 総合職(男性14名・女性1名)、一般職(女性3名)
平成25年 総合職(男性16名・女性1名)、一般職(女性3名)
平成26年 総合職(男性17名・女性1名)、一般職(女性3名)
平成27年 総合職(男性16名・女性1名)、一般職(女性5名)
平成28年 総合職(男性17名・女性1名)、一般職(女性5名)
平成29年 総合職(男性18名)、一般職(女性5名)
平成30年 総合職(男性17名)、一般職(女性5名)
令和元年 総合職(男性19名)、一般職(女性5名・男性1名)
令和2年 総合職(男性20名)、一般職(女性5名・男性1名)

 また、設立時から令和2年4月までの間にY社に在籍した総合職は、合計34名(うち女性は1名のみ。以下「L」)、一般職は合計7名(うち男性は1名のみ。以下「G」)です。そのうち19名が退職しています。内訳は、15名の総合職(Lを含む)が自己都合、1名の総合職が定年、3名の一般職が自己都合によるものです。

(5)Gについて

 G(平成30年4月9日時点で満39歳)は、平成22年4月1日から平成26年9月25日までY社の総合職として勤務していた者です。他社での勤務の後、Y社の一般職として採用され、令和5年10月16日に総合職に登用されました。

(6)労働組合を通じた申し入れ

 Xが加入する労働組合(以下「組合」)は、平成29年11月29日付で、住宅手当などの福利厚生は、総合職と一般職の区分けをせず同一賃金として公平に適用すべきことを内容とする要求書、団体交渉申入書を送付しました。

 また、組合は、同日付で、Y社に対して労働組合加入通知書を送付し、Xの賃金・労働条件および雇用に関する事項についての一切の交渉を代表する旨を通知しました。

 組合は、平成30年1月13日付で、社宅手当を女性従業員にも適用することを内容とする要求書、団体交渉申入書を送付しました。

 組合は、令和2年2月17日、Y社に対し、住宅管理規程を一般職にも適用すること、過去の男女差別によって生じた損害分の一切を請求することなどを内容とする要求書を、電子メールで送付しました。

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この記事の著者

坂本 直紀(サカモト ナオキ)

人事コンサルタント、特定社会保険労務士、中小企業診断士、坂本直紀社会保険労務士代表社員。就業規則作成・改訂、賃金制度構築、メンタルヘルス・ハラスメント対策社内研修などを実施し、会社および社員の活力と安心のサポートを理念として、コンサルティングを行う。 ホームページに多数の人事労務管理に関する情報、規定例、...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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