さまざまな角度から仮説を立てて課題の本質を探る
ある組織のサーベイ結果では、上述で示した「個人の状態が良くないときに下がりやすい質問」として位置付けている5つの設問に対して、「Yes」「Yesとは言い切れない」「No」の回答選択肢のうち、毎月、複数のメンバーが「No」と回答している状態が続いていました。
しかし「No」が回答される項目は月によって違っていたため、経過を分析しても具体的な打ち手が見つからない状態でした。そこで、チームのメンバー数人に個別対応を実施しました。
Noと回答しているメンバーが顕在化している課題を抱えていることは明らかですが、他メンバーも潜在的に抱えている課題があるかもしれないという仮説を立て、個別対応ではNoと回答していない人にもヒアリングを行いました。
ヒアリングの結果、言葉は違えど「相談できる環境が少なく、適切に業務をフォローしてもらえていない」と感じていることが共通項として浮かびがってきました。すなわち「スパン・オブ・コントロールが適正ではない状態だった」ことが分かりました。
マネジメントからの視点では、日々の業務はある程度円滑に進行できていたため、気づけていなかったのです。この状態を受け、早期に体制を変更したところ、サーベイ結果にも改善が見られるようになり、その後のヒアリングでも以前より働きやすくなったという声を聞くことができています。
サーベイは従業員の声を集める1つの手段ですが、その回答内容は1人ひとり異なり、グラデーションのように反映されます。課題の予兆をキャッチしたら、声を上げている従業員だけではなく、その周囲までに含めてさまざまな角度から観察し、仮説を立てることでより効果的な課題解決へのアプローチを見つけられるでしょう。
おわりに
今回は組織サーベイを活用した個人へのアプローチ方法や、そこから組織課題の発見につなげるための取り組みについてご紹介しました。
組織全体の結果を俯瞰して傾向を確認することも大切ですが、ミクロの視点を持ち、個別の回答結果に注目することや、従業員からの声を見落とさないように対応を進めることも、組織サーベイの活用方法としてとても大切であると考えています。また、個人の課題解決については、本人からマネジメントへの共有OKの了承を得ることが前提となりますが、必要に応じてマネジメントと連携し改善を目指す姿勢も必要だと考えています。
ここまで5回にわたり従業員サーベイの活用方法をお伝えしました。サーベイの活用は、他のアプローチと組み合わせることで、より効果的な組織改善につなげられます。人事が従業員の働きがいを高めるためには、仮説を持ちさまざまな手法を用いて継続してアプローチし続けることが大切です。本連載が、事業成長の基盤となる人事戦略における1つのヒントになりましたら幸いです。