成功体験に縛られず、ITやAIの進化に応じて仕事の進め方を変えるには
野澤 御社は社員と会社とのつながりが強い印象があります。どのような工夫をされていますか。
花田 確かに難しい課題ですね。正直に言うと、当社グループもエンゲージメントサーベイの結果は決して良いとはいえません。海外の厳しい環境でのプロジェクトが多いため、常に高いモチベーションを維持するのは簡単ではないからです。
それでも、プロジェクト完了時の達成感や仲間同士の支え合い、駐在中の休暇サイクルを一律8週間とする制度「WinLIFE(Work in Lifeから)」などを導入し、フィジカル・メンタル・ソーシャルのウェルビーイングのバランスを取る工夫をしています。

野澤 困難を乗り越えた体験を共有すると、仲間意識が深まります。御社でもそうした経験を共有することで、自然とロイヤルティが高まっているのかもしれません。
花田 そういう面はあると思います。社員はプロジェクトを通じて、日々さまざまな難題に直面しています。ただ、私たちが手がけるプラントは、その国の産業発展に寄与するものが多いです。たとえば、完成したプラントの夜景に照明がついたり、フレアスタック(ガスを燃焼する煙突)に炎が灯ったりする瞬間があります。たとえ自分たちの仕事は終わっていても、その国や社会に貢献しているという喜びや達成感を感じることができます。
私はよく「Why・What・How」の話をします。
- Why:産業課題を解決して社会に貢献する
- What:どのようなプロジェクトをデリバーするのか
- How:それをどのように実行するか
という考え方です。
実際のプラント案件は、過去の延長線上でそのまま実現できるものはほとんどありません。どれも唯一無二のプロジェクトといえます。その中で、スケジュール、コスト、品質、さらには全体最適を実現するには、複数の要素を同時に考えながら意思決定していく必要があります。そのための訓練を日々重ねています。
野澤 そうなると、経験や知識が大きな武器になりますね。
花田 そうですね。ただ時には、それらが強すぎると壁になってしまうこともあります。
野澤 経験豊富なミドルシニアの方々の活躍の場がなくなるという心配は、御社にはあまりない気がしますが……。
花田 今のやり方がベストとは限りません。今後、ITやAIがさらに進化すれば、仕事の進め方を変えていく必要があります。そのときに、自分の成功体験がベストプラクティスだと思い込んでしまうと変化に対応できません。
これはベテランであるほど難しいかもしれません。重要なのは、「なぜ変わらなければならないのか」、つまりWhyを組織全体で共有することです。それができていれば、変化は比較的スムーズに進んでいくでしょう。
野澤 そうなると、ミドルシニアも含めて、AIや最新テクノロジーを取り入れていく必要がありますね。御社の中高年層は、学びに積極的な印象があります。
花田 確かに、学ぶ姿勢は強いと思います。社員の8割以上がエンジニアなので、デジタルやITに対して強い拒否反応を示す人はあまりいません。また、エンジニアは地道に物事を進める一方で、「できるだけ効率よく進めたい」という思いも強いです。楽をするための手段としてデジタルを活用しているメンバーも多いと感じます。
野澤 社内勉強会など、新しい知識を学び合う場も多いのでしょうか。
花田 「まずは経営と社員の結節点となる部長から」という考えで、部長層を対象としたアップグレードプログラムを2024年から開始しました。最初のテーマはAIでした。また、CDOやCIOが中心となり、年に2度「みんデジ(みんなでデジタル大作戦)」という取り組みを実施し、AIやデジタルを自分事として捉えて学ぶ取り組みを推進しています。私のCDO時代には、デジタル戦略や活用事例をまとめた社内冊子も作成し、全社員に配布したのですが、これは大変好評でした。
野澤 デジタル化の意義やメリットをしっかり伝えているのですね。

花田 マネジメント層の多くは、長年アナログ環境で仕事をしてきた世代です。私はよく「デジタルネイティブではなく、デジタルイミグラントだ」と言っています。要するにデジタル移民です。私からすると、(Windows 95が発売された)1995年以降に入社した人たちは比較的デジタルネイティブに近く、それ以前の世代はアナログ世代といえるでしょう。
私の専門である土質工学でたとえると、この世代は粘土層のようなものです。透水性が低いため、上から水を流しても途中で止まってしまいます。企業でいえば、経営のメッセージが途中で止まったり、現場の声がトップに届かなかったりする状態です。そこで、この粘土層に砂層を入れて透水性を上げる必要があります。砂層とは、企業でいえば若手社員となります。
実際、当社グループでは2020年度から、若手を中心とした「デジタルインフルエンサー制度」を導入しました。そのメンバーがAIの新しい仕組みづくりに取り組んでいます。さらにAIの専門チームも立ち上げています。
また、社員にはさまざまなタイプがいます。全員に同じ処方箋を適用するのは、もはや現実的ではありません。キャリアは65歳で終わらない。定年後も絆を保ち、社会貢献を目指すべきです。

