好む好まざるにかかわらず、人類はAIと暮らしていく社会に突入

熊谷 雇用の消失や職種移動といった厳しい変化がある一方で、これまで人が行っていた業務をAIが担うことで、効率化などのポジティブな側面もあると思います。たとえば、御社が提供されている「AI面接」や「AIロープレ」による、ポジティブな変化とネガティブな変化の双方をお聞かせいただけますか。
橘 AI面接のポジティブな側面についてお話しします。これまでの新卒採用などでは、人間による書類選考の段階で多くの応募者が「お見送り」となっていました。学歴、年齢、性別、国籍といった書類の情報だけで、人と人が直接出会う前に機会が閉ざされてしまっていたという、ある意味で差別的な歴史があります。それをAIとの対話に置き換えることで、人間的な魅力を引き出し、客観的な評価ができるようになります。これは非常に納得感のあるポジティブな変化です。
また、社員の営業ロールプレイングなども、日常的にAIを相手に練習し、それを人間との実践で補完するような使い方であれば、すばらしい効果を生みます。
熊谷 逆に、ネガティブな側面としてはどのようなことが考えられますか。
橘 「AIを相手に対話や面接をするのか」という、人間としての根源的な嫌悪感や違和感です。これはよく理解できます。「ロボットといっしょに暮らす」といった感覚はまだアニメの世界のように感じられるため、社会全体がそれをポジティブに受け入れるまでには、あと2~3年はかかるのではないでしょうか。
AIエージェントを採用し、マネジメントするスキルのほうが価値が高くなる
熊谷 AI面接を実際に利用した企業や学生からは、どのようなリアクションが返ってきていますか。
橘 企業によって異なりますが、早くからAIに親しんでいる企業からは非常に歓迎されています。書類だけでバサッと不採用にするのではなく、AIの力を借りて逆に「人間性を取り戻していこう」というアプローチなので、違和感なく受け入れられています。
一方で、学生さんの反応は半々くらいです。「AIのほうが緊張せずに話せるし、いつでも受けられて良い」という声がある一方で、まだ慣れないという方もいます。まさに今はそうした過渡期にあるのだと思います。
熊谷 私が学生さんに聞いてみたところでもAI面接の経験者は多く、「世の中そういうものだろう」と変化を受け止めている層も確実に増えていると感じます。これが5年後などになってくると、それが前提の世界にどんどん変わっていくのだろうと思います。
橘 ポジティブに思うかネガティブに思うか、個人がどう思うかにかかわらず、もう人類はAIと暮らしていく社会に突入するので、そうした変化を受け入れなくてはならないでしょう。
変化を受け入れる必要があるのは企業側も同じです。これからの5年間は、人間を採用しマネジメントするスキル以上に、AIエージェントを採用しマネジメントするスキルのほうがはるかに価値が高くなります。それを浸透させた組織こそ、これからの時代をリードしていくと思います。
熊谷 企業側が変化を受け入れ、現場に浸透させるためにはどうするべきでしょうか。
橘 まさにチェンジマネジメントが必要になります。経営者と人事が手を携えて、「採用をどうするのか」「何の職種を残し、何の職種をチェンジするのか」という方針を決定し、それを大胆に実行していかなければなりません。
この方針を決定するために人事に一番必要なのは、テクノロジーの未来予測を行う力です。AI活用を進める中で、採用を抑制する大企業が続出していますし、300人から100人に減らすということも起きています。ではその100人をどういう基準で採用するかというと、人間的な力強さやエネルギーへ回帰するという動きもあります。そうした「どのスキルを持つ人材を残すか」という冷徹な判断を行うために、人事には前提としてテクノロジーの進化を見極める力が絶対に必要です。
変化を求められる従業員側には恐れがあるかもしれません。しかし、変化は世の常です。インターネットが多くの雇用や働き方を変えたように、AIもまた大きな変化をもたらすでしょう。そして、そのインパクトは、インターネット登場時を上回るでしょう。もはや、使いこなす側になるしかないと私は思います。

