まさにこれからは人事の時代、その理由は
熊谷 AIエージェントが導入され、それをマネジメントする世の中になった場合、人事が担っている「配属」や「組織づくり」にはどのような変化が生まれるのでしょうか。
橘 これからの3年ほどは、AIが浸透してもまだ人間が主体の組織が前提になると思います。そのため短期的には、「どう労働分配すれば生産性が上がるか」をAIに相談しながら、人事が配置を決めていくことになります。
しかし、3年後以降になると、社員の半分がAIエージェントという組織構成が当たり前になると私は見ています。採用時も「人を雇うか、AIを導入するか」という判断になり、配置転換の半分はAIが占めるでしょう。そして、2030年までにはAIが主体となり、「人間の良さとして残る職種は何か」という価値観への変革が起きます。AIエージェントにより雑務から解放された人事は、徹底的に「人そのもの」に向き合うことになるでしょう。
熊谷 組織におけるチェンジマネジメントを担う存在として、人事の価値が圧倒的に上がっていくのですね。
橘 圧倒的に上がります。これまではクラウドSaaSやDXを推進する「情シス」や「DX部署」の時代でした。しかしこれからは、人間とAIエージェントの採用・配置の意思決定権を握る「人事の時代」です。人事が一番向き合うべきテーマは、「テクノロジーの最新の発展」と、「変わらない人間の本質に何を残すか」という2点に集約されるでしょう。
熊谷 その2つに向き合ううえで、制度なども大きく変えていく必要がありますね。
橘 はい。たとえば育成においては、これからAIに代替されて消えゆくスキルを伸ばしても意味がありません。情報の的確な伝達といった階層型のマネジメントスキルはAIが担えるため、リーダーシップ研修そのものをやめる会社も出てきています。どんな人を採用し、どう評価し、賃金規定や組織階層をどうするか。これらを向こう5年ほどで、すべてやり直さなければなりません。だからこそ、人事自身がAIについてリスキリングすることが本当に重要です。
熊谷 日本と海外を比較して、この変化のスピード感に違いはありますか。
橘 アメリカでは、GAFAMなどが数万人単位の解雇を行っていますが、彼らは業績が悪いから解雇しているのではなく、業績が良く未来を見通せるからこそ、AI時代を見据えて人員を整理しています。これは世界で初めてのパラダイムシフトです。
一方、日本では簡単に解雇ができないため、大企業を中心に、「この部署を廃止するので1000人単位で別の業務に移ってください」といった大規模な社内リスキリングや配置転換がすでに起きています。スタートアップ企業では、最初からAIを前提として採用計画を立てており、かつての半分の人数で同等の生産性を担保するような動きが当たり前になっているように思います。
熊谷 なるほど。では最後に、読者である人事の皆様へメッセージをお願いします。
橘 まさにこれからは「人事の時代」です。AIを加味したうえで、採用も評価も賃金も、すべてをゼロからやり直す激動の時代になります。経営を巻き込み、大胆にチェンジマネジメントを進めることで、業務生産性を引き上げ、結果として社員を救っていくことができます。ぜひ、人事の皆様自身が先頭に立ち、このAIの活用と変革のプロセスを楽しみながら、取り組みに邁進していただければと思います。
熊谷 本日は貴重なお話をありがとうございました。

取材後記(熊谷優作)
橘さんのお話の中で最も印象に残ったのは、「書類だけで機械的に選別するのではなく、AIの力を借りることで、むしろ人間性が取り戻されていくのでは」という言葉でした。効率化や客観性ばかりが語られがちなAI活用ですが、AIが浸透するからこそ、最後に組織の熱量を決めるのは、「この人と働きたい」「この人の力になりたい」と思える感覚なのだと、改めて感じました。
また、2030年に向けて「人そのもの」に向き合う人事が増えていくというお話には、私自身が携わるCorporate Giftの領域にも通じるものがあります。合理的な処理をAIに任せられる時代だからこそ、感謝を伝えること、関係性を築くこと、1人ひとりに目を向けること。そうした一見“非合理”にも見える営みにこそ、人が介在する価値が残っていくのではないでしょうか。
激動の時代だからこそ、テクノロジーの進化を見据えながら、同時に人間らしさをどう残していくのか。そんな問いを強く意識させられる取材となりました。

