日本企業のAI活用、採用ではまだ“自動運転レベル2”
熊谷優作氏(以下、熊谷) 現在、世の中全体で「AI」が実際の業務に組み込まれていく流れが進んでいます。この流れは従業員や各現場に対し、どのような大きな変化をもたらすのでしょうか。またそれに紐づいて、人事業務や担当者側にはどのような変化があるとお考えですか。
橘大地氏(以下、橘) 現状として、すでにさまざまな現場で「汎用AI[1]」が浸透しており、使いこなせる人とそうでない人の間で、業務生産性に5倍から10倍もの差が出ているようです。また今後は、汎用AIではなく、人間が細かい指示を出さなくても自律的にタスクを遂行させられる、より高度な「AIエージェント」が一般的になる時代へと突入します。たとえば、建設現場や工場に特化したAIエージェントが導入され、AI自身が工場を稼働させていくような世界です。
注
[1]: 特定の作業に限定される「特化型AI」とは異なり、人間のように幅広いタスクを理解し、自律的に学習して柔軟に応用できる理想的な人工知能。
橘 大地(たちばな だいち)氏
株式会社PeopleX 代表取締役CEO
2010年東京大学法科大学院修了。弁護士資格取得後、株式会社サイバーエージェント、GVA法律事務所にて、弁護士として企業法務活動に従事。2015年に弁護士ドットコム株式会社に入社し、クラウド契約サービス「クラウドサイン」の事業責任者に就任。2018年4月より同社執行役員に就任、2019年6月より取締役に就任。クラウド型電子署名サービス協議会を創設し代表理事に就任。
2024年4月株式会社PeopleXを創業。対話型AI面接サービス「PeopleX AI面接」やエンプロイーサクセスHRプラットフォーム「PeopleWork」等を開発、運営。2025年4月より「AIによる採⽤⾯接・⼈事評価サービス協議会」(AIAC)を創設し、代表理事に就任。
熊谷 AIが自律的に業務を遂行するようになるのですね。雇用への影響はいかがでしょうか。
橘 皆さんが最もAIの影響を実感するのは、日本でも実用化が近づいている自動運転の分野だと思います。現在の汎用AIは、あくまで人間の能力を拡張する段階にとどまっており、実体経済や雇用への影響はそれほど大きくありません。
しかし、自動運転AIが組み込まれることで、ドライバーの方々の雇用や採用に如実な影響が出始めます。人間の一部のスキルを補助するのではなく、人間の業務をAIエージェントが代替する時代の始まりです。場合によっては雇用そのものが失われ、リスキリングや別の職種への転身を余儀なくされるといった、痛みを伴う変化が起きるでしょう。今年に入って、新卒採用の人数を大幅に減らしたりする大企業が出始めているのも、そうした背景があると考えています。
熊谷 自動運転はレベル1(運転支援)からレベル5(完全自動運転)までの5段階で整理されていますよね。たとえば、採用という観点で見た場合、現在はどのレベルに相当するのでしょうか。
熊谷 優作(くまがい ゆうさく)氏
株式会社ギフティ giftee for Business本部 Corporate Gift Unit Manager
北海道大学経済学部を卒業後、2021年度にギフティに新卒入社。法人・自治体向けにデジタルギフトの流通を担う「giftee for Business」で、事業のグロースをミッションに新規プロダクト企画に携わる。2023年1月からは「Corporate Gift」の領域において、ユースケースの探索からプロダクト企画までをリード。現在は、福利厚生プログラムの基盤「giftee Benefit」の推進に注力している(Corporate Gift、giftee Benefitの概要は記事「ギフトでエンゲージメントを向上! 福利厚生にも対応したギフティの従業員向けソリューションとは」を参照のこと)。
橘 現在の日本の採用は自動運転でいえばレベル2程度で、あくまで人間が主導し、AIが補助を行っている状態です。レベル1と2は一部の作業をAIが手助けする段階ですが、レベル3になるとAIが主導権を握り始めます。レベル5の完全自動運転の世界になれば、アメリカなどでは「人間が運転するよりもAIのほうが事故の確率が低く安全だ」という理由で、人間による運転を禁止する法案が出てくる可能性すらあります。そしてこれは、あらゆる雇用や人間の仕事に対して当てはまる考え方だと思います。
熊谷 その結果として、人事が向き合うべきスタンスにはどのような変化が起きるのでしょうか。
橘 すでに大企業の人事は、経営者や投資家からの猛烈な圧力に直面しています。人員削減や、100人、1000人単位での大規模な職種移動を迫られているのです。「この職種をなくして、こちらに移動させる」という判断を下し、リスキリングのプログラムを提供したり、場合によっては痛みを伴う整理解雇を進めたりしなければなりません。そうした重い経営判断をすぐに行うことが、人事に求められています。

