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フィードバック経営 「沈黙の組織」から「高め合う組織」へ | 第1回

社員の声の96%が経営に届かない——あなたの会社にも潜む「沈黙」の正体

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組織が「壊れたエアコン」になっていないか

 どのように沈黙の組織を脱却できたのか、脱却の具体策は本連載の後半で順に紹介しますが、全ての施策に1本通っていた背骨が「フィードバック」でした。経営と現場の間で声を交わして修正する。社員同士で率直に伝え合い、互いを高める。この2つの循環を回し続けたことが、組織を改善する基盤となったのです。

 ここで1つお伝えしたいのは、コミュニケーションとフィードバックは別物だということです。

 コミュニケーションは、情報のやりとりです。一方、フィードバックはその先にあります。やりとりした情報をもとに、行動や判断を修正するところまでがフィードバックです。

 エアコンの仕組みをイメージするとよいかもしれません。人が設定温度を決める。センサーが室温を測る。設定との差に応じて、冷房を強めたり弱めたりする。「感知して、調整する」の繰り返しで、室温は快適に保たれます。温度を測って画面に数字を出すまではコミュニケーション。その数字をもとに冷房の出力を変えるまで実行して、はじめて「フィードバック」ができた状態といえます。

 沈黙の組織は、いわば「壊れたエアコン」です。センサーは室温を感知している。画面に数字も出ている。しかし、出力は変わらない。現場では問題が見えている。会議でも報告されている。しかし、何も変わらない。感知だけがあって、調整がない状態です。

 あなたの組織では、コミュニケーションの先にあるフィードバックが実践できている——つまり「沈黙は起こっていない」と断言できるでしょうか。私はこれまで、多くの経営者から組織課題の相談を受けてきました。業種も規模も異なる経営者の悩みを聞くうちに確信しました。「沈黙」の構造は、あらゆる組織に潜んでいるのです。

「優秀な人材が辞めていく」「言っても無駄」沈黙の組織にあらわれる6つの症状

 ここからは、「沈黙の組織」とは具体的にどのような状況なのかをひも解いていきます。

 私は、沈黙の組織かどうかを診断する基準として、6つの症状があると考えています。

症状1:現場の声が経営に届かない──意思決定の劣化

 役員会議で社長が「気になる点があれば遠慮なく」と促す。「特にありません」と各部門が順に答える。営業の責任者は顧客から「この価格帯では厳しい」と聞いている。しかし口を開かない。隣の同僚も黙っている。方針は全会一致で承認される。異論のない会議は、合意ではない。

症状2:顧客の変化に気づけない──市場との断絶

 長年つきあいのある顧客から、はじめて競合の名前が出る。営業担当者は会議で報告しようか迷うが、議題は今月の受注見込み。求められているのは数字の進捗。肌感覚の話は、メモとともにそっと閉じられる。市場の変化は、最初から数字として表れるわけではない。

症状3:優秀な人から辞めていく——人材の流出

 入社1年目で3晩かけた企画書に対して、上司の返事は「お疲れさま」の一言。3年目に転職サイトを開いたのは、強い決意があったからではなく、なんとなくだった。退職届を出すとき、彼はこう言った。「ここで何を学べているのか、ずっと分からなかったんです」。彼のような社員は、決して珍しくない。

症状4:言われたことしかやらない——自律性の喪失

 新しい担当を引き継いだ若手が、自分の判断でレポートのフォーマットを改善した。上司は「ああ、分かった」と短く答える。翌週、別の担当者が叱られているのを見て、胸がざわつく。次の案件から、彼は自分では決めなくなった。「お客様にとってどうか」ではなく、「上司はどう思うだろうか」が判断の軸になっていく。

症状5:新しいアイデアが出てこない——イノベーションの枯渇

 顧客の一言にひらめいた担当者が、企画書を1枚にまとめて持っていく。「面白いね。でも前例がないから、まず実績のあるやり方で進めよう」。同僚にも相談する。「提案して却下されたら評価に響くよ」。帰りの電車でメモを閉じる。翌週、似た要望をまた聞いた。今度はメモを取らなかった。

症状6:「おかしい」と誰も言えない──コンプライアンスの崩壊

 経理担当者が、月末の数字におかしな計上を見つける。隣の先輩に聞くと「ああ、それ、月末はよくあるよ。数日くらいなら調整の範囲」。「今回だけは特別に」「目標達成には仕方ない」──小さな妥協が重なり、「みんなやっていることだから」が暗黙の合意になる。誰もが同じように黙っているから、その判断はますます正しく見える。

 これら6つの症状が蔓延するとどうなるのか。象徴的な事例が、2015年に発覚したドイツ・フォルクスワーゲンのディーゼルゲート事件です。世界約1100万台のディーゼル車に、排ガス規制を不正にクリアするソフトウェアが組み込まれていました。「環境に配慮したクリーンディーゼル」を掲げながら、現場では「できません」と言える空気がなかったといいます。

 階層が上がるにつれ、現場の声は「問題なし」という報告に変わっていきました。制裁金や訴訟費用だけで総額300億ユーロ超、日本円にして約5兆円。失われたのは金額だけではありません。長年築いてきた「ドイツ品質」への信頼、社員のプライド、顧客との絆。数字に換算できない損失のほうが、はるかに大きかったはずです。

 あなたの組織には、いくつ当てはまるでしょうか。

次のページ
沈黙するのは個人の問題ではない

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この記事の著者

三村 真宗(ミムラ マサムネ)

株式会社U-ZERO 代表取締役 CEO 兼 CPO

慶應義塾大学卒業後、創業メンバーとしてSAPジャパン株式会社に入社。マッキンゼー・アンド・カンパニー、ベタープレイス・ジャパン株式会社などを経て、2011年に株式会社コンカーに参画。代表取締役社長として、社員一人ひとりの声を経営に活かす組織づくりを徹...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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