グローバル人材の可視化はなぜ難しいのか 人的資本開示を実現するHRプラットフォーム構築の考え方
匿名化・マスキングは「使えないデータ」にすることではない
グローバル人材データを活用するうえで、しばしば論点となるのが匿名化やマスキングです。個人情報保護の観点から、個人を特定できる情報をそのままグローバルに連携することが難しい場合があります。その際、氏名、社員番号、メールアドレスなどを削除または置換することで、分析に必要な範囲にデータを限定することが求められます。
ただし、匿名化やマスキングは「データを使えなくする」ためのものではありません。むしろ、適切な保護措置を講じることで、データ活用を可能にするための手段です。たとえば、個人名を見なくても、組織別・職種別・地域別の人数、スキル分布、異動傾向、離職傾向を把握することはできます。人的資本開示や戦略的な人材ポートフォリオ分析では、個人を特定する必要がない場面も多くあります。
重要なのは、利用目的に応じて必要十分な粒度を見極めることです。後継者計画やタレントレビューのように個人単位での確認が必要な業務もあれば、開示指標や全社傾向分析のように集計データで足りる業務もあります。目的ごとにデータ項目、粒度、アクセス権限、保存期間を設計することで、プライバシー保護とデータ活用を両立できます。
プラットフォーム構築は「技術」よりも「合意形成」が難しい
HRデータプラットフォームの構築というと、システムアーキテクチャ、データ連携方式、BIツール、クラウド基盤などの技術論に目が向きがちです。もちろん技術選定は重要です。しかし、実務上より難しいのは、関係者間の合意形成です。
どのデータを連携するのか。誰がデータオーナーなのか。更新責任はどの部門が持つのか。データの正しさは誰が保証するのか。どの地域の法規制をどのように確認するのか。経営は何を見たいのか。人事現場は何に困っているのか。こうした問いに答えのないままにシステムを導入しても、期待した効果は得られません。
特にグローバルプロジェクトでは、本社、地域統括会社、各国法人、IT、法務、外部ベンダーなど、多くのステークホルダーが関与します。タイムゾーン、言語、文化、意思決定プロセスの違いもあります。そのため、プロジェクトの初期段階で、目的、スコープ、データ利用方針、ロードマップを明確にし、ガバナンスモデルを共有したうえで、コミュニケーションプランに沿って関係者と継続的に認識を合わせることが重要です。
私の経験上、成功するプロジェクトでは、「何のためにこのデータ基盤をつくるのか」が繰り返し共有されています。単なるシステム刷新ではなく、経営と人事が将来の人材戦略を描くための基盤であり、CSRDを含むグローバルな開示要請にも対応するための基盤であるという目的が共有されている場合、各地域の協力も得やすくなります。
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栗山 周也(クリヤマ シュウヤ)
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 People Consulting / HR Transformation シニアマネージャー
外資系コンサルティングファームを経て現職。HR IT領域の専門家として、人事システムの構想策定や人事システム選定から、人事システムを活用したBPR、グローバ...
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