「国内での人材発掘・育成で足りない人手を海外から」が基本コンセプト
――すでに国では経済産業省(以下、経産省)をはじめ、総務省や厚生労働省、法務省など、各省庁の連携のもとで、さまざまな外国人人材の受け入れ拡大に取り組んでいるとうかがっています。経済産業省の担当する範囲での現状などをお聞かせいただけますか。
藤岡伸嘉氏(以下、藤岡):経産省の重要な施策の1つにIT人材の育成がありますが、まずは国内のIT人材をどう育成するかが重要な課題です。その上で日本のイノベーションに資するもしくは人材不足を補える外国人の人材を受け入れていくというのが、基本的な考え方です。
そうした観点から、国内では若手育成など、さまざまな施策を実施してきています。例えば、IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)における「未踏IT人材発掘・育成事業」があります。いままで見たこともない“未踏的”なアイデア・技術を持つ“突出した人材”を発掘・育成する事業で、イノベーションを創出できる極めて高い能力を持った人材を育てる試みです。2000年の事業開始以降、これまでの間に約1700人を育成しています。この他、IPAの行う「セキュリティ・キャンプ」は、高度化・複雑化するサイバー攻撃に対処できる若いセキュリティ人材の発掘と育成を目指して2004年から毎年開催され、これまで663名の修了生を送り出してきました。
――もはや国内にリソースがないから海外のIT人材を求めるのではなくて、国内での発掘・育成を推進してなお足りない部分に、外国人IT人材の力を借りるというシナリオなのですね。
藤岡:若者だけではありません。国内では2017年から「第4次産業革命スキル習得講座認定制度」を創設し、既存の技術者の学び直しとして、IT・データ分野を中心とした専門的かつ実践的な教育訓練講座を展開しています。今後は、AI、IoT、ビッグデータ、データサイエンスなどの人材、第4次産業革命を実践していくための人材を育成していくことに力点が置かれていくことになるでしょう。
――それだけの国内人材に対する手厚い発掘・育成事業を行っても、全体の需要に対する数としてはまだまだ及ばないのですか。
藤岡:背景には我が国の少子高齢化という大きな要因があり、この影響はIT業界だけでなく、あらゆる業種で確実に影響を及ぼし始めています。様々な業種・業態に起こっている人材不足を補うために、外国人の人材をいかに呼び込むべきかという論議が根本にあり、政府による高度外国人材の受入れ政策もそこから生まれてきました。
アジア主要国で「情報処理技術者試験」による資格の相互認証を実現
――一方、外国人IT人材に対する取り組みの現状や成果は、どんな状況でしょうか。
藤岡:最も大きな取り組みとしては、IPAが支援している「アジアの情報処理技術者試験」が挙げられます。これはすでに50年にわたって実施されてきた日本の「情報処理技術者試験」の経験やノウハウを生かして、アジア地域でのIT技術者育成を支援すると共に、そうした人材リソースをお互いに有効活用しようというものです。
平成12年(2000年)10月のASEAN+日・中・韓 経済閣僚会合で日本が提唱し、採択されました。現在11か国が参加していますが、ここで認定された資格は相互認証されるので、日本において有資格者として活動できます。現在、全体で年間約1万名弱が受験しています。
IPAによる「アジアの情報処理技術者試験」
上表の5か国では各国独自の試験内容が実施され、合格者の資格は相互に認証される。下表の6か国はまだ自国での試験体制が整っていないため、日本の情報処理技術者試験問題を英訳した問題を使って、「アジア共通統一試験(ITPEC)」として実施されている。さらに詳しい情報は、IPAのWebサイトで見ることができる。
【試験区分】 FE=基本情報技術者試験, AP=応用情報技術者試験, SA=システムアーキテクト試験, PM=プロジェクトマネージャ試験, NW=ネットワークスペシャリスト試験, DB=データベーススペシャリスト試験, SC=情報処理安全確保支援士試験, IP=ITパスポート試験
――試験制度は若手人材の育成に有効ですが、すでに技術や経験を持っているエンジニア層を呼び込むには、どのような工夫をしていますか。
藤岡:そちらについては法務省入国管理局が、「高度人材ポイント制による出入国管理上の優遇制度」を設けています[1]。これはIT分野だけに限らず、高度な学術研究や技術、経営・管理に関する能力や学歴、実務経験などを細かく分類した上で、該当するスキルや資格に応じてポイントを付与するというものです。
――その人の能力を点数化して、得点数に応じた優遇を行うわけですね。
藤岡:各項目の得点合計が70点以上であれば“合格”として、「高度専門職1号」に認定され優遇の対象になります。さらに1号として3年以上活動し、認められると「高度専門職2号」になれて、ほぼ制約なく自由に活動できるようになります。優遇内容としては、在留資格の緩和や申請から認可までの期間短縮、永住許可要件の緩和、また家族を呼び寄せられるといった特典項目があります。
注
[1]: 「高度人材ポイント制による出入国管理上の優遇制度」の詳しい内容は、法務省入国管理局のWebサイトを参照。