社内エンジニアとの信頼関係がベースになる
今はとにかくエンジニア採用が難しくなっている。今年の8月8日にパーソルキャリアが発表したリポートによると、全体の求人倍率は2.48倍、業種をIT・通信に限ると7.24倍だった。求人倍数が上がれば上がるほど人材紹介会社の利益は増すが、事業会社の人事にとっては大変な事態になる。小規模でネームバリューで勝負できない企業では、いくら予算を投じても、エンジニアを採用できない状況が生じている。
社長やCTOから「予算はあるのにどうして人が採れないのだ」とプレッシャーをかけられ、思わず人事を辞めたくなったことのある人も少なくないだろう。宇田川氏も、かつてはそんな経験をした1人だった。しかし、人事1人ではエンジニア採用は不可能だということを知り、社内のエンジニアをはじめ、周囲を巻き込んでいく中で、厳しい状況を脱することに成功した。そんな宇田川氏は、「プラス思考になってください。あなたの会社にエンジニアがいるのなら、エンジニアの採用は必ず成功します」と強調する。
そもそも、エンジニア採用に失敗する原因は、社内のエンジニアと信頼関係を構築できていないことにあると宇田川氏。次図にあるような点からエンジニアのことを理解し、彼らと信頼関係を構築するところから始める必要があるという。
まず、全社員に対するエンジニアの比率を押さえる。求職中のエンジニアは、社内にどのくらいのエンジニアがいるのかを知りたがるものだからだ。それから、誰が何を担当しているのかを把握する。
エンジニアのプロフィールを知ることも人事の大切な役割の1つである。宇田川氏の周りには以前、人事は知らないけれども雑誌やWebメディアに記事を書いている、大学でセミナーを行っているといったエンジニアがいたことがあるという。そうしたインフルエンサーの存在は、求職中のエンジニアには魅力に映ることも多い。
また、自社に著名なエンジニアがいたら、何経由で入社したのか――リファラル採用なのか、スカウト採用なのか、アルムナイ採用なのか――を調べる。彼らが自社に入社を決めた理由を知ることも重要だ。サービスに惹かれたのか、社長の人柄に惹かれたのか。宇田川氏はそのあたりもヒアリングしておくという。
その上で、採用に関わってもらうエンジニアを決める。このとき、宇田川氏は「どのようなエンジニアが何名採用したいのか」「今回採用を行う理由は何か」などをエンジニアに語ってもらっている。その情報がないと求人票を起こせない上に、人材紹介会社に熱意を伝えることも不可能だからだ。逆に、ここで情報をしっかり取得しておけば、質の高いスカウトメールを人事でも書けるようになる。宇田川氏はさらに、「どのエンジニアがどれくらい残業しているのか。何名入社するとどれくらい残業が減るのか」といったところまでヒアリングしているという。
ただし、語ってもらうときには対面であることが大事だと宇田川氏。チャットやメッセンジャーで行う人がいるが、エンジニアと信頼関係を築くためにも膝と膝をつき合わせて直接話すことが必要だと強調した。
エンジニアとの関係構築ができたら、レバレジーズやGeeklyといった人材紹介会社へ一緒に出向くことをお願いする。エンジニアには、そこで「なぜ採用しなくてはいけないのか」「なぜその言語なのか」などを直接説明してもらうのだ。もちろん、サービスの魅力も語ってもらう。一方、人事は待遇面について話す。こうした役割分担ができるのは、エンジニアとの関係構築が成功している証だと宇田川さんは語る。それができていないと、「そんなことはお前の仕事だろ」の一言で終わってしまう。
「エンジニアとの関係構築は簡単なようでいちばん難しい作業です。まずはここに時間を費やしてみてください」(宇田川氏)
こうして構築したエンジニアとの信頼関係が、人事が行うエンジニア採用活動の基盤となる。
なお、宇田川氏は求人票を書くとき、在籍するエンジニアのプロフィールまで書いているという。どんなエンジニアが社内にいるかは、他社との差別化点になるからだ。このプロフィールを書き入れた求人票と、GreenやWantedlyなどのデータベースで調べた適切と思われる候補者のリストとが用意できたら、エンジニアに見てもらう。スカウトメールを打つところまで人事がやると言えば、現場で多忙なエンジニアは大変助かるといって見てくれるだろう。