自律した組織への第一歩はマネジメント変革から
2009年に創業し、コスト改善コンサルティング「Less is Plus」、ピープルマネジメントSaaS「Wistant」、現場の事例から学べるWebメディア「SELECK」などの事業を展開するRELATIONS。52名の従業員を擁する同社では、2019年より「ホラクラシー組織」を導入し、自律分散型の組織運営を行っているという。
ホラクラシー組織とは、社内に役職や上下関係が存在しないフラットな組織体制のこと。RELATIONSでは、現在、約300のロール(役割)に権限が分散され、それぞれのロールに対して人をアサインする形で仕事が進められている。マネージャーという個人に対し、権限と責任が固定されているわけではないため、変化に対応しながら一人ひとりが自律的に動けるメリットがある。加えて、今年の1月末からは全社員が完全在宅勤務へ移行し、新たに「コロナ対策ロール」を設置。社員の働き方に関する意思決定を迅速に行っている。
「新型コロナウイルスの感染拡大によって、ルールが整備されないまま、半強制的にテレワークへ移行した企業は多く、『パフォーマンス管理がうまくいかない』『若手や次世代リーダーの育成をどうサポートすべきかわからない』『本当にきちんと仕事をしているのかわからない』といった悩みをよく耳にするようになった」と語る加留部氏。
RELATIONSのようなホラクラシー組織をいきなり導入するのは難しいにせよ、より一層「自律・自走」した働き方のできる社員を増やすことは、Withコロナ時代における喫緊の課題だといえる。
「そこでまず見直すべきは、マネジメントだ」と加留部氏は強調。「変化の激しいVUCAワールドと呼ばれる時代に入り、従来のタスクや進捗を中心に“管理する”『指示・命令型のマネジメント』は限界を迎えている。これから求められるのは、メンバー一人ひとりに向き合って、可能性を引き出しながらパフォーマンスを最大化する『伴走型のマネジメント』です」(加留部氏)
経営として自律した組織をいくら目指そうとしても、現場で「指示・命令型のマネジメント」が横行していたら、自律した組織への移行が果たされることはないだろう。人事主導による「組織づくり」と現場のマネジメントを一貫したものにすることが不可欠なのだ。
加留部氏は、そんな自律をサポートするマネジメントのあるべき姿を提示した。
- 数値を押し付けてコミットさせるのではなく、目標の背景や会社とのつながりをきちんと伝える
- 進捗を確認して実行させるのではなく、「今、一番課題に思っていることは何?」といった、適切な“投げかけ”をすることで、目標達成を阻んでいるハードルを一緒に取り除く
- 1対1で30分以上話す機会を月に2〜4回設ける
- 1対1で話すときは指導ではなく、コーチングが中心になるようにする
- 過去に対してのフィードバックではなく、未来に対してのフィードフォワードを行う
- 結果だけを伝えるのではなく、納得感のある評価によって成長につなげる
- 年に数回の評価の時期だけでなく、称賛やフィードフォワードの機会を多く設ける
自律した組織づくりに向けた3つの人事制度
次に加留部氏は、自律した組織づくりに向けてマネジメントレベルを担保するために大切な、「目標設定・管理」「1on1」「フィードバック・評価」の3つの人事制度を紹介した。「1対1のコミュニケーション機会としてこの3つのイベントを組織に落とし込み、人に向き合い伴走するマネジメントの実行を担保することが重要です」。
その際、メンバー一人ひとりが自律的に行動できるようにするためのポイントは、次の2つだ。
- ①会社の目標や戦略の背景をきちんと説明し、理解を深める
- そのために目標設定のプロセスを変更し、一人ひとりが目指すべきゴールを明確化する。
- ②高頻度の対話(投げかけ)により、自律性・自発性を引き出す
- そのために1on1を導入して対話を増やす。目標達成のためのサポートやフィードバックの頻度を増やす。
では、これらの人事制度をテレワークに合わせて最適化していくためには、どうすればよいのだろうか。それぞれ見ていこう。
テレワーク時代における「目標設定・管理」のポイント
- 会社やチームの目標の背景や根拠を、メンバーが正しく理解できているか
- 個人目標が、会社やチームの方向性と一致しているか
- 目標達成に向けたハードルを解除するサポートが生まれる仕組みがあるか
「目標が“お飾り”になってしまわないためには、これまで以上に目標を意識する頻度を増やし、都度、活動の修正をしていく必要がある。そのために、マネージャーと部下のコミュニケーションの仕組みを用意しておくことが、とても重要なポイントになってきます」(加留部氏)
テレワーク時代における「1on1」のポイント
- 1on1運用の目的が、テレワーク時代に即したものになっているか
- 頻度や時間の長さは最適か(従来よりも多めに)
- 遠隔での1on1に適したツールを導入できているか
「オンラインの1on1では、最近のよかった話など、雑談からスタートすることをお勧めしています。『シャッフル雑談1on1』といった形で、いつもと違うペアで対話するのも効果的です」(加留部氏)
テレワーク時代における「フィードバック・評価」のポイント
- 印象論ではなく、事実情報に基づいた、根拠のあるフィードバックができているか
- テレワークでも、事実情報を収集する仕組みがあるか
- 頻度は十分か、また多面的なフィードバックができているか
「評価面談がうまくいっていない企業では、事実情報を収集する仕組みがないケースが散見されます。評価する側も人間なので、何か月も前に他の人が何をしていたかなんて、覚えていられません。多面的な事実情報の収集のために『360度フィードバック』や『マネージャー向けフィードバック』を取り入れると、普段からダイジェストでその人の動きが分かるようになるので、とても評価しやすくなるはずです」(加留部氏)
RELATIONSでは、コロナ禍の新しい施策として、「1on1の頻度アップ(週1)」「日報の詳細化によるアウトプットの可視化」「全社会議(オンライン)を毎週開催。その際、少人数での雑談セッションも毎回行う」「コミュニケーションツールの追加導入」を行っているという。
ピープルマネジメントツール 「Wistant」とその特徴
「Wistant(ウィスタント)」は、先に紹介した3つの人事制度「目標設定・管理」「1on1」「フィードバック・評価」の効果を高め、組織のマネジメントレベルを引き上げる機能を備えたツールだ。ツールの導入においては、ゴール設定から各社に合わせた運用の土台づくり、そして、Wistantを用いたピープルマネジメントの実践と、課題分析や改善施策の実行まで、包括的に支援してもらえる。
Wistantを使えば、「目標のアクションができている人はどのくらい存在しているのか」「できていない人はどこにいて、何をすれば改善するのか」といったことが可視化される。
「Wistantは日常的にマネージャーやメンバーの方に使っていただくツールなので、UIやUXには非常にこだわっている。ツール利用に不慣れな50代・60代の方からも、抵抗感なく使えるという声をいただいています」(加留部氏)
Wistantには、人事制度を形骸化させないための多彩な機能が備わっている。代表的なものは以下のとおりだ。
マネージャー専用の「メンバーボード」
自分がマネジメントを担当しているメンバー全員の状態や、今すぐ実行すべき最適なマネジメントのアクションを簡単に確認できる。また、「誰にどんなサポートを行うべきか」が可視化されるため、ストレスなく、一人ひとりに寄り添ったマネジメントを実行できる。
メンバー一人ひとりの状態を分析
自分がマネジメントを担当している メンバー一人ひとりの「現状」を簡単に確認できる。目標の進捗や1on1の実施率、求めているサポートや、実行されたアクションをチェックすることも可能。
チームや組織の目標達成を支援
OKRやMBOなど、さまざまなフォーマットに対応。会社・チーム・個人の目標をそれぞれ登録し、進捗を確認できる。また、メンバー一人ひとりの「目標進捗」と「求めているサポート」が分かるので、メンバーの目標達成に向けて、マネージャーは具体的なアクションを打つことができる。
1on1による伴走
1on1を実施するメンターとメンティーのペアや、周期(スケジュール)を設定できる。また、メンティーが1on1の前に「事前アンケート」に回答することで、アジェンダも設定可能。作成された「1on1シート」 や「ガイドライン」を見ながら1on1を行うことで、対話の質が向上する。
フィードバックや評価の運用
対象者や周期、評価項目、スコアリングを自由にカスタマイズしたフィードバック(評価)シートを作成できる。通常の評価オペレーションの改善のほか、気軽なフィードバックを増やすことで、メンバーの成長を促せる。
人事や経営によるマネジメントの分析
会社全体、チームごと、メンターやマネージャーごとに、1on1の実施率や充実度、目標達成率やフィードバックの実施率などを分析可能。会社の現状をキャッチし、具体的な改善策につなげられる。
最後に加留部氏は、「今のマネジメントが、自社にとって最適なものになっているのか。今後の時代を生き残り、さらに成長を続けていくためにどうしていくべきか。今日の話をきっかけに、ぜひみなさまで考えていただければと思います」と語り、講演を締めくくった。