感染症対策はルールの明文化から
――新型コロナウイルスに限らず、SARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)など、世界ではパンデミックが定期的に生じています。そうした中で、企業はどのように対応していけばよいのか。基本的な感染症対策についてお聞かせください。
まさに「新型コロナに限らず」というところがポイントになりますね。もはや、いつどのような感染症がパンデミックを引き起こすのか。予測はできませんが、断続的な到来は必至と考えられています。そもそもインフルエンザであっても、事業場内の感染率が20%を超えると事業の継続が難しくなるので、まずは「BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)」として感染症対策を考える必要があります。これは地震などの災害と同じ、“有事”の対応です。
そしてもう一つ、「従業員の健康を守る」という観点から、感染症は従業員の健康を損ねかねない重要事項として、“平時”の対応も求められつつあります。従来はインフルエンザにかかっていても出社する人が多かったのですが、近年は感染症への理解が進み、感染者に対して出勤停止する企業も増えてきました。会社の中での感染を防ぐためであり、「感染者の任意ではなく、会社の指示として休ませる」という判断がなされているわけです。
つまり、有事と平時と、2側面からの感染症対策が必要というわけですが、当然ながら相互に深く関係しており、平時の対応が、そのまま有事の判断に直結します。つまり、平時からしっかりと対応することが必要です。
それを怠るとどうなるか。例えば、ノロウイルスや風疹・麻しん、インフルエンザなど、感染症にかかった社員の出勤が常態化している会社で、同僚である妊婦に感染させて流産となった場合、黙認していた会社の責任も問われ訴訟のリスクを負うことになります。クラスターが発生すれば、事業継続性に加えて会社自体が社会的責任を問われることもあるでしょう。労働安全衛生法では、「企業は従業員に対して健康管理を行う義務を負う」と定められており、会社は「他の社員の健康を阻害する可能性がある人の行動」を制御する必要があるわけです。
しかしながら、“有事のみ”のルールや制度を作っても実践されることはまずありません。「子どもが流行感冒にかかったら、その親は在宅にする」といった平時のルールが浸透していなければ、いざ有事というときに従業員は判断できないのです。
――なるほど、平時からのルール作りが大切というわけですね。
そうですね。かつて日本では「無理をしてでも働くこと」が権利または美徳とされ、組織による出勤停止などの判断がとられにくい傾向にありました。しかし、新型コロナウイルスの蔓延によって、個人の権利よりも最大幸福が優先されると判断し、感染症に対して「会社としてルール作りをしておくべき」と考える経営者が増えています。ルールは、先に述べたような「BCPを意識した有事のルール」と「従業員の健康を守るための平時のルール」の両面から考え、具体的に明文化しておくことが必要です。