1. 事件の概要
本件は、被告株式会社(以下「A社」という)の従業員である原告1(以下「X」)、原告2(以下「Y」)および原告3(以下「Z」)が、上司である被告社員(以下「B」)から暴行や暴言を受けたと主張し、A社とB(以下「A社ら」)に対し、不法行為または債務不履行による損害賠償請求権に基づき、慰謝料等の支払いを求めた事案です。
(1)当事者
A社は、消費者金融を営む会社です。
Xは、平成15年9月にA社に入社してから平成19年7月まで、第2事業部に所属して債権管理および回収の業務を担当していました。
Yは、平成17年2月に、Zは、平成15年12月に、A社にそれぞれ入社以降、第1事業部に所属して債権管理および回収の業務を担当していました。
Bは、昭和54年にC日本支社(以下「C社」)に入社し、昭和62年10月にC社の関連会社であるA社に入社し、第2事業部の部長を務めていました。
(2)Bの暴言・暴行
①Bの日常の問題行動
Bは、第2事業部において、A社の回収目標より高い目標を設定し、部下がその目標を達成できなかった場合、他の従業員が多数いる前で、「馬鹿野郎」「会社を辞めろ」「給料泥棒」などと言って、当該従業員や直属の上司を叱責することがしばしばありました。
また、Bは、平成17年4〜5月頃には、部下を自らの席に呼び出して叱責するとともに、その部下の頭を定規で殴打したり、電卓を投げつけたりしていました。
A社には残業や休日出勤に対する手当は存在しなかったにもかかわらず、第2事業部に所属の従業員は、早出出勤や残業、休日出勤を行うことが通常となっていました。
②強引なD新聞加入勧誘と、Xへのパワハラ
Bは、平成16年8月頃から業務時間中にもかかわらず、部下にD新聞を購読するよう勧誘し、相手がこれを断ると叱責していました。
Bは、平成17年5月、XにD新聞の購読を勧誘しましたが、Xはこれを断りました。
Bは、同年9月頃、XがBの提案した業務遂行方法を行っていないことを知ると、Xから事情を聞いたり、説明を求めたりすることなく、「俺の言うことを聞かないということは懲戒に値する!」と強い口調で叱責し、Xの上司であった副店長も呼び出した上で、Xと共に始末書を提出させました。
Bは、Xから提出された始末書に、「今後、このようなことがあった場合には、どのような処分を受けても一切異議はございません」との文言をXに加筆するよう命じ、Xは始末書にそのとおりの文言を入れ、Bに提出しました。
③A社のパワハラ防止対策
A社は、平成18年4月1日、就業規則を改定し、「パワーハラスメントの禁止」の項目を新たに加え、「職務上の地位を利用して、他の従業員に不利益や不快感を与えたり、就業環境を悪くすると判断される行動等を行ったりしてはならない」との規定を定め、「服務規程」の項目に、「政治あるいは宗教的なビラを会社の物件に貼り、あるいは社内で配布し、勤務中に政治的あるいは宗教活動や集会に参加したりしないこと」という規定を加えました。
Bは、上記の就業規則改訂の後に、D新聞の購読を勧誘した部下の従業員に対し、同新聞の購読代金を返金しました。
④定例会議での暴言
平成19年6月のある日、毎週定例の会議において、Bが「何か意見はないのか?」と各人に意見を求めました。
そこでXは、「みんな自分の担当する顧客の回収に必死なのは分かりますが、電話が鳴っても電話をあまりに取らないので、電話に出るよう指導をしてほしい」旨の意見を述べました。
するとBは激しく怒り出し、Xに対し、「お前はやる気がない。なんで、ここでそんなことを言うんだ。明日から来なくていい」などと述べました。
⑤事業部統合
平成19年7月、A社の第1事業部と第2事業部が統合されました。
Bが統合後の事業部の部長となったため、第1事業部所属のYおよびZにとって、Bが新しい上司となりました。