1. 事件の概要
本件は、原告(以下「X」)が被告(以下「Y社」)に対し、Y社が少なくとも1年にわたってXに対して恒常的に過重な業務を行わせ、また健康管理を怠るなど、安全配慮義務に違反したことにより、Xに高血圧性脳内出血および脳梗塞を発症させ、両上下肢機能障害の後遺障害を負わせたとして、損害賠償を請求した事案です。
(1)当事者
Xは、昭和54年1月頃からY社で運送業務に従事し、Y社の指示に従い、単独で深夜から翌日にかけて鮮魚等をトラックで運送するほか、積み込みや荷卸しの作業を行っていました。
Y社は、和歌山市を中心とする地域で運送業等を営む会社であり、貨物自動車の運転手約60人を業務に従事させていました。
(2)Y社について
Y社は、近畿圏内で水産物の運送業を営んでおり、事務員と運転手を使って仕事をしていました。
給与として、事務員には月額約12万から20万円を支払っていました。
従業員として雇用する運転手には基本給と手当を合わせて月額約30万から60万円を、毎月15日締切で25日に支払っていました。
Xのように、自分でトラックを持ち込んで経費を負担して専属的に運送業務を行っていた傭車運転手には、売上に基づいて報酬を計算し、毎月25日に40万円(所得税だけを控除)を支払い、毎月末日に残額を支払っていました。
また、Y社は、H水産から毎日ファクシミリで送信されるその日の予定に基づき、Xを含めて約4台のトラックでH水産から魚市場までハマチを運んでいました。
冷凍食品の運送については、あらかじめ指示した積み込み先を3~4台のトラックで回らせていました。そして、荷物を全部トラックに積み込んだ上、1箇所に集まって効率よく配達できるように荷物を仕分けし、配達先を回らせていました。
仕事の指示の方法や内容について、従業員運転手と傭車運転手とを区別していませんでした。
傭車運転手には、運送の経路の指定や高速道路の使用制限をせず、各運転手に任せていました。
(3)Xの業務内容
自宅を出発して鮮魚の積み込み先へ行き、そこで鮮魚を積み込み、配達後、冷凍食品の積み込み先を回り、順次冷凍食品を積み込み、これを配達し、その配達を終えて帰宅するというものでした。
鮮魚の配達を終えた後、そのまま帰宅することもありました。
(4)X所有の貨物自動車の状況
Xは、Y社において運送業務に従事するに当たり、自己の所有・管理に属する普通貨物自動車を使用していました。
Xは、同自動車につき、自宅付近に駐車場を自己負担で借りていました。加えて、燃料代、エンジンオイル等の交換の費用、タイヤ代、車検時の諧経費、高速道路料金および自動車税を負担し、任意保険にも自ら加入していました。
(5)Xの日々の業務
Xは、Y社において運送業務に従事するに当たり、午前1時頃に自宅近辺の駐車場から直接H水産まで行き、鮮魚や冷凍食品の配達を終えて、概ね午後3時か4時頃には帰宅しました。
Y社には出勤せず、たまに和歌山市新和歌浦にあるY社の事務所に顔を出す程度でした。タイムカードや出勤簿に押印したことがなく、少なくとも平成9年5月分以降、Y社がXの売上に応じて計算した報酬を、40万円と残額の2回に分けて受け取っていました。
Xは、助手や交代要員を設けず、単独で、深夜から日中にかけて鮮魚等の運送業務に従事していました。積み込み先や配達先を回るだけでなく、積み込みや荷卸しの手伝いもさせられており、休憩時間がほとんどない状態でした。
昭和60年頃から、Xの健康を慮った妻(以下「花子」)には仕事を休むように言われましたが、Y社代表者から「あんたが頼りや」などと言われたことや、同僚の運転手がY社の意向に反して休みを取った結果、Y社から仕事を与えられなくなって退職を余儀なくされたこともあり、ほとんど休みを取りませんでした。
(6)Xの勤務状況
Xが平成10年6月から平成11年6月23日までの間で、Y社の運送業務に従事しなかった日数は、次表のとおりです。
一方、Xが平成10年6月から平成11年6月23日までの間で、Y社の運送業務に従事した時間は、次表のとおりです。
(7)Xの事故
Xは、平成11年6月24日午前10時35分頃、大阪市此花区桜島3丁目1番先路上において、普通貨物白動車を運転中、進路前方に停止中の車両に追突する交通事故(以下「本件事故」)を起こしました。高血圧性脳内出血を発症したためでした。