パソナグループは、「“大離職時代”の企業活動への影響に関する調査」を実施し、その結果を発表した。
コロナ禍を経て、働く人の仕事に対する価値観や会社に期待することなど、労働を取り巻く環境や意識が大きく変化する中、アメリカでは「大離職時代(Great Resignation)」が到来し、企業活動に大きな影響を及ぼすといわれている。そこで同社は、日本を含む各国・地域において大離職時代がどのように企業に影響をもたらしているのか、コロナ禍以前と以降の従業員の仕事に対する価値観の変化や離職状況などを調査・分析し、傾向をまとめている。
調査の概要と結果は以下のとおり。
- 調査対象:日系企業のグローバル人事担当者、現地法人人事担当者
- 調査方法:オンライン調査
- 調査地域:日本、アメリカ、カナダ、香港、台湾、韓国、タイ、ベトナム、マレーシア、シンガポール、インドネシア、インド 計12ヵ国・地域
- 有効回答数:821社
- 実施期間:2022年8月5日~16日
コロナ禍で仕事に対する価値観などが「変化した」が約8割、変化を感じた項目は「勤務形態に対する要望」が82%
コロナ禍で従業員の仕事に対する価値観などが変化したかという質問に対し、全体の79%が「変化した」と回答した。
続いて、どの項目で従業員の変化を感じているかという質問では、「勤務形態に対する要望」という回答が82%に上り、コロナ禍を経て在宅勤務が普及したことなどが大きく影響していると考えられる。
従業員の仕事に対する価値観や会社への要望の変化は、業績に対して「プラスの影響」と「マイナスの影響」が拮抗
コロナ禍前後における従業員の仕事に対する価値観や会社への要望・期待などの変化が、企業業績に影響を及ぼすかという質問には、「プラスの影響」が26%、「マイナスの影響」が29%となった。
一方、全体の37%の企業は「(影響を及ぼすか)わからない」と回答しており、世界の経済活動がコロナ禍以前に完全には戻っていない中、従業員の変化が業績に影響を与えるかについて判断がつかない企業も多い現状にある。
国別では、タイで「マイナスの影響」が51%と突出する結果となった。これは、従来盛んだった観光産業がコロナ禍で不振となったことで、従業員の企業からの自立に向けた意識、ひいては企業への帰属意識に影響を与えており、各企業で業績にも悪影響を与えると見込んでいるようだ。
コロナ前に比べ、39%の企業が「離職者が増加」と回答、特に若年層や入社年数が浅い層で増加傾向が大きい
コロナ前と直近を比較すると、全体の39%が「離職者が増加」したと回答した。
特に「増加」が多かったマレーシアでは、主に半導体業界をはじめとする慢性的な人材不足で企業の採用活動が活発化し、同時にコロナ禍におけるオンライン面接の普及が転職意欲を喚起していると考えられる。またカナダは、在宅勤務などの勤務形態への要望が強まったことが増加の理由と推察される。
また、離職者の状況を階層別に聞いたところ、組織階層が下位レベルの従業員、入社年次が若い従業員ほど、「増加」が大きい結果となった。日本における増加傾向は、終身雇用という概念が薄れ、特に若年層で転職によるキャリアアップやスキルアップを志向する傾向が広まっていることが大きな理由になっていると推察される。
直近1年では、コロナ前に比べて「働き方」を理由に離職するケースが11ポイント上昇
コロナ前と直近1年の離職理由の上位3つを聞いたところ、「働き方」を理由に離職するケースが11ポイント上昇した。コロナ禍によってリモートワークや在宅勤務が普及し、場所にとらわれない働き方を求める従業員が増えたことが背景にあると考えられる。
従業員は、通勤時間の効率的な活用や、家族との時間を大切にしたいなどを理由に、柔軟な働き方を実現できる企業での就業を望む傾向にあり、企業は在宅勤務の体制整備や、フレックスタイム制の導入などの対応が必要となってきている。
7割がコロナ前に比べて人材マネジメントの難化を感じている
全体の7割に及ぶ企業が、コロナ前と比較して人材マネジメントに難しさを感じるようになり、特に日本とマレーシア、アメリカでは8割超に上った。
コロナ禍により多くの企業でリモートワークの導入が加速し、企業は従業員それぞれの希望に合った柔軟な働き方を容認しつつも、コミュニケーション不足などが課題として残っている。コロナ以前は対面で行っていた従業員への日々の声掛けや短時間の面談などが気軽に実施しにくくなったことなどから、特に社員のモチベーション維持に難しさを感じていると推察される。
また、前出のQ4で約4割の企業が「離職者が増加」したと回答しているとおり、仕事や働き方に対する価値観の変化が、企業への帰属意識や人材の定着にも影響を与えていることが分かる。
大離職時代への対策は、給与テーブルの見直しや昇給、在宅勤務に適したシステムの導入など
大離職時代に対する今後の対策を聞いたところ、「特に対策はしていない」という回答は9%にとどまり、多くの企業で現状の人材マネジメントに危機感を持ち、人材流動の活発化に備えて制度の見直しや就労環境の整備などを検討している様子が見てとれる。給与テーブルの見直し・昇給や、在宅勤務に向けた設備投資など、多くの企業で従業員の満足度向上につながる投資に意識が向いていることが分かった。
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