「育成フレームワーク」および「ラダー」の概要については、本連載第1回をご覧ください。
成長目標を明確にする「ラダー」の重要性
人の成長は一つ飛びにはいきません。誰もが階段を一歩一歩踏みしめるように、順を追って能力を高めていきます。自社の最終的な求める人物像、つまり育成の最終到達点に向けて、個々の社員にどのように成長していってほしいかを示すのが「ラダー」です。
ラダーは職種によって、また企業によっても異なります。たとえば、医療業界のある病院で働く看護師を例にとると、次表のようなラダーが考えられます。
能力目標には「看護実践力」や「チームワーク力」といったラダー共通の軸があり、そのレベルがラダーごとに高まっていくようなイメージです。
そして前回述べたとおり、ラダーは必ずしも1本化する必要はありません。組織には、スペシャリストとして達人や専門家を目指したい人もいれば、ゼネラリストとしてマネージャーや経営層を目指したい人もいます。個人のキャリア志向が多様となってきている昨今では、複数のラダーを用意しておくのも社員への訴求になるでしょう。
こうしたラダーを作り込むためには、まずその職種を深く分析し、「この仕事をするためにはこのような能力が必要」ということを明らかにする必要があります。そのために、現場の当該職種の方々へインタビューやアンケートを実施する、場合によっては実際の仕事現場に同行したりして行動観察をする、といった方法で情報収集をしていきます。
このように、ラダーは「うちの会社では、このくらいの段階を踏んで一人前に成長し、やがてこのレベルになっていってほしい」ということを社員へ明確にメッセージするものであり、社員のモチベーションを高めるためにも重要なものです。目指すべき目標が明確になると、それを達成しようというモチベーションが生まれます。
この目標を達成しようというモチベーションは、「熟達目標」と「遂行目標」の2種類に分かれます。熟達目標は、今までできなかったことをできるようになりたいという純粋な達成感を求めるモチベーションです。遂行目標は、周囲に自分の能力を高く評価してもらいたい、もしくは低く評価されるのを避けたいというモチベーションです。研究においては、熟達目標のほうが長期的なパフォーマンス向上につながることが分かっており、ラダーは熟達目標を刺激する役割を果たします。
また、ラダーで具体的な成長の道筋を段階的に示すことには、何を目指して頑張ればよいかを明らかにし、「急には無理だが、順を追って成長していけばいつか自分も達人レベルになれそうだ」という自己効力感を生む効果があります。自己効力感もまた社員のパフォーマンス向上のキー概念です。
なお、目標到達目安や役職目安が社員にフルオープンとなることで、社員間の無用なあつれきが懸念される場合(「あの人は入社して◯年経っているのにまだこの段階……」というような陰口がささやかれるなど)は、社員にはオープンにせず、人事側だけで把握するものとしてもよいでしょう。このあたりは会社の組織文化・風土にもよりますので、自社の文化や雰囲気を踏まえて決めるようにしてください。