ステップ1:「効率と能率の葛藤」「受容と支配の葛藤」を乗り越える(状態①→状態②)
状態①から状態②にステップアップするためには、次の2点ができるようになる必要があります。
- 生産性向上や利益創出への高い要望の提示
- それを実現するための、ルール遵守への厳しい姿勢の明示
生産性を高め、利益を創出するためには、経営における複雑性(Complexity)[1]をマネジメントすることが欠かせません。一定の複雑性は組織のPerformance(=組織成果と個人のモチベーションの両立)を高める一方で、複雑性を放置すると増大の一途をたどる宿命があるので、仕組みやルールといった制約条件を明確にすることも重要になります。
当社が整理した上図の「Performance × Complexityモデル」で示されるように、一定の複雑性があるとPerformanceは上がりますが、あるレベルを越えると下がります。このPerformanceが極大化する最適値は状況により異なるため、「組織成果=効率」と「個人のモチベーション=能率」の葛藤を乗り越え、双方が極大値になるように複雑性をマネジメントする手腕が経営者には求められるのです。
また、利益を創出するためには、市場や顧客に対する「受容」と「支配」の葛藤を乗り越えることも重要です。市場や顧客の複雑なニーズを受容すればするほど、組織は疲弊し、利益を創出しにくくなります。一方で、自社最適ばかりを重視し、市場や顧客を顧みない支配的な経営をしていると顧客から見放されてしまいます。経営者には、「受容」と「支配」のバランスをとり、最適解を導き出す能力が必要です。
注
[1]: 多様性も複雑性の1つです。
ステップ2:「分化と統合の葛藤」を乗り越える(状態②→状態③→状態④)
状態②から状態③、状態④へとステップアップするためには、次の2点ができるようになる必要があります。
- 課題や潜在的脅威を踏まえた、事業成果の創出に向けたプロセスや体制づくり
- 社内外のコミュニケーションにおけるハブ機能の発揮
ここでは、事業と組織のつながりを整える手腕が求められています。そこで活用したいのが、「5M(ファイブエム)」のフレームワークです。これは、当社が考案したフレームワークで、「Message」「Motivation」「Membering「Mission」「Monitoring」の5つのMで構成されています(次図)。
上段にある2つのMは、「事業戦略(Message)」と、それを実現するための「動機形成=組織戦略(Motivation)」を指します。企業経営では、必ず事業戦略と組織戦略の間に何かしらの不整合や葛藤が生じます。その葛藤を解消するための要素が、下段にある「人材開発(Membering)」「役割設計(Mission)」「管理制度(Monitoring)」の3つのMです。
つまり、下段の3つのMは、事業戦略と組織戦略の実現を図るための操作変数というわけです。事業成果の創出に向けて組織戦略を考える際は、必ず人材開発、役割設計、管理制度と連動させてデザインしなければいけません。
加えて、人材開発、役割設計、管理制度の各施策を、コミュニケーションでつなぐことも大切です。たとえば、人材開発の一環として研修を行う際は、「なぜ、この研修をこのタイミングで実施するのか(管理制度)」「この研修によってどのような変化を期待しているのか(役割設計)」ということを紐付けて伝えなければいけません。
一方で、この5Mを設計する際に直面する葛藤が、「分化」と「統合」です。組織は規模の拡大にともない、階層や機能の専門分化を進める必要性が生じます。しかし、分化が進むほど、組織全体の意識統合(一体感)は弱くなります。分化を怠ると組織拡大のスピードが鈍化し、統合を怠ると組織がバラバラになるという葛藤が生じるわけです。
組織は、分化と統合を繰り返しながら発展していくものです。この葛藤を乗り越え、的確な事業戦略と組織戦略のデザインができるようになれば、優れた経営層に1歩近付けるでしょう。