DE&I推進の阻害要因
1990年代以降のダイバーシティマネジメントへの注目を受け、DE&Iが組織パフォーマンスを向上させる原動力となり得ることが多くの人に共有されるようになった。しかし実際には、DE&Iの取り組みが思うように進まないという声が現在でも少なくない。星加教授によると、DE&Iに取り組むうえで「3つの阻害要因」があるという。
①マジョリティ性の壁
「マジョリティとは多数派のことを意味しますが、ここでは単に数が多い人のことではなく、組織の中で力を持っている人のことをイメージしてほしいと思います。つまり、すでにこれまで組織の中で活躍できていた人たちのことです。
DE&Iを推進するということは、そうしたマジョリティとは異なる人を組織に入れ、その人たちが公正に活躍できるような状態に組織を変えていくことです。組織にいるマジョリティにとっては、自分の知らない人たちが入ってくることや、競争相手が増えること、自分たちがこれまでうまくやってきたやり方を変更・否定されるような形になり、ある種の抵抗感を持った受け止め方やネガティブなアクションを起こすこともあります」(星加教授)
②管理的思考のわな
「組織経営をしていくうえで管理的思考は重要な考え方です。しかし、管理的思考の下では、ベネフィットよりもリスク・コストのほうが高く見積もられる傾向があります。
『こういうふうにしたら、これだけのコストがかかり、これだけの儲けが出ます』といった計算可能な領域であれば、ベネフィットとコストは公平に見積もられます。しかし、計算できないベネフィットはそうではありません。たとえば、『イノベーション』というのは従来のやり方の延長線ではなく、何らかのブレークスルーを起こしたときに生まれるベネフィットです。『こうすれば確実に発生する』というものではないため、あらかじめ計算に入れておくことはリスクが高いと見なされます。
しかし、DE&Iというのは、組織変革とイノベーションを起こす原動力としての意味を持つものですので、管理的思考の下ではDE&Iへの取り組みは後回しにされがちになることがあります」(星加教授)
③ヒーロー・カリスマ的なリーダー像
「従来、リーダーというと『将来を見通して組織を引っ張っていく存在』というイメージが想起されがちで、実際にそういうリーダーが重要だと考える人も多くいると思います。
しかし、そうしたリーダーは『これまでのやり方でうまくやってきた人』です。言い換えれば、マジョリティの考え方を組織の中で前面化しているということでもあり、『マジョリティ性の壁』を強化するようなことにもなりかねません。
これに対して、近年では“インクルーシブリーダーシップ”という考え方があります。リーダーとは「引っ張っていく存在」ではなく「チーム全体がうまく機能する状態を生み出すために、人を巻き込んで関係づくりや文化形成を促していく存在」であるという考え方、あるいはそういう機能としてのインクルーシブリーダーシップという考え方が注目されてきています」(星加教授)