「本人のやる気を下げるオンボーディングあるある」とは
前回(第1回)で、新卒入社者・キャリア入社者・異動者なら誰しも直面する「3つの壁と6つの症状」を紹介しました。そして、個人がこれらを乗り越えるために、人事が中心となってオンボーディングの仕組みを用意することが大切だ、という話もしました。
では、人事はどのようなオンボーディングの仕組みをつくればよいのでしょうか。良い例を紹介する前に、まず本人のやる気を下げてしまう例をいくつか紹介します。
企業がついついやってしまいがちな「本人のやる気を下げるオンボーディングあるある」。それは、本人を組織風土や仕事のやり方に無理になじませようとすることです。つまり、会社がなってほしい姿の型にはめてしまう。上司や先輩が答えを持っており、上から下への育成を行い、教えたり指示したりする指導スタイルを取ることです。
これらの「あるある」には共通点があります。それは企業主語一辺倒であることです。企業主語ばかりの受け入れでは、本人のやる気が下がってしまいやすくなります。
たしかに、新たに組織に入る人たちには、「職場の雰囲気になじまない」「仕事の進め方に戸惑う」などの6つの症状が現れがちです。その症状を何とかしてあげたい気持ちはよく分かります。だからといって、周囲が本人を無理になじませようとしたり型にはめようとしたりするだけだと、むしろ本人のやる気が下がってしまいかねません。オンボーディングはそのような難しさをはらんでいます。
オンボーディングに「やる気が高まる公式」を活かそう
上手に受け入れて本人のやる気を高めるためには、どうしたらよいのでしょうか。まず、本人側から考えを掘り下げてみましょう。
当然ながら、新卒入社者・キャリア入社者・異動者の大半は、最初はやる気が高い状態にあります。彼らは「早く結果を出したい」「早く周囲から認められたい」「明るい未来を少しずつでもよいから感じたい」などと思っています。「これまでの経験や学び、知識やスキルを新しい場所で活かしたい」という気持ちも強いでしょう。新天地で手応えを感じたいのです。しかし、企業主語を一方的に押し付けるオンボーディングは、こうしたやる気を下げてしまうことにつながります
では、「本人のやる気を下げるオンボーディングあるある」に陥らないようにするには、どうしたらよいのでしょうか。答えは意外とシンプルで、次に示す「やる気が高まる公式」を活かすことです。
まず本人が「自分でやると決める」。自分なりに取り組むことに意味を持たせることが大事です。次に「周りからOKをもらえる」。やり始めたこと自体もそうですし、少しずつ現れる小さな成果に対してもそうです。そして3つ目が「効力感を感じる」。自分の力が活かせてきていると感じることです。これらがつながり、そろうと、やる気が高まります。とてもシンプルで分かりやすいですね。これはいわば、本人主語の視点です。先ほどの「本人のやる気を下げるオンボーディングあるある」には、それが欠けていたといえ、本人主語のやる気が高まる公式をオンボーディングに活かすことで、本人のやる気を高めやすくなっていきます。
なお、この公式は「内発的動機付け」というキーワードで語られるもので、私たちリクルートマネジメントソリューションズの創業者・大沢武志の『心理学的経営』(PHP研究所、1993年)にも詳しくまとめられています。より専門的に学びたい人は同書をお勧めします。