話し手

岡田 悠希(おかだ ゆうき)氏
オルビス株式会社 HR本部 本部長
2018年からオルビスにて、リブランディングによる構造改革と両軸で戦略人事を遂行。採用ブランディング、組織開発、人事制度改革を立て続けに主導。2023年には、さらなるブランド成長を見据え行動指針を大きくアップデート。また、昨年からマネジメント人材育成における新しい教育プログラムを構築し、さらなる組織力を高める。オルビスが掲げる「スマートエイジング®」の提供価値のもと、一人ひとりが自分らしく働ける組織づくりを目指す。
聞き手

谷本 潤哉(たにもと じゅんや)氏
株式会社O:(オー) 代表取締役
大企業〜スタートアップまで50以上の企業の「第二創業」や新規事業立ち上げなど、経営者と向き合い企業活動活性化に従事。チーム内の「フィードバック」を増やし、「1on1支援」「目標管理(MBO/OKR)」「評価支援(360度含む)」機能が連携してエンゲージメントを育成するパフォーマンス・マネジメントサービス「Co:TEAM (コチーム)」を展開。
なぜ、ブランド変革が必要だったのか
オルビスは現在、公式オンラインショップや全国93店舗の直営ショップの直販に加えて、自社アプリ(ダウンロード数672万件、顧客登録者数373万人[1])のデジタルを活用して顧客との関係性も強化してきた。そして近年はECプラットフォームやドラックストアなど新たな顧客接点を生む外部チャネルも高成長している。
注
[1]: 2025年4月末時点。
しかし、こうした現在の姿に至るまでには大きな転換期があった。
オルビスは1987年に創業し、カタログを中心とした通販のパイオニアとして成長した。1997年には業界に先駆けてECサイトをオープン。データドリブンなマーケティングを強みとして、2000年代前半には売り上げ500億円規模のブランドへと成長した。
ところが2010年代後半に入って市場環境が大きく変化する中、オルビスもまた新たな課題に直面する。役割分担し、高速なPDCAによる成長と引き換えに、最適化と効率化を重視する文化が定着した結果、組織は「過去の成功体験に縛られ、新たな挑戦が生まれにくい」状況に陥っていた。さらに、大手化粧品メーカーのデジタル戦略の強化や、D2Cブランドの台頭、ECプラットフォームの拡大により、かつての競争優位性は揺らぎはじめる。
そこでオルビスは2018年に通販会社からブランドビジネスに事業ドメインを転換し、リブランディングによる構造改革を進めた。組織構造を従来のチャネル別から、より柔軟で横断的な連携が可能な機能別へと転換。さらに「過去の成功体験に縛られた」状況を打破するために、企業風土そのものの変革に踏み切った。こうして、ブランド、組織、個人の三位一体での進化を目指すリブランディングがスタートした。
「組織文化の変革」をHRの最優先課題に
このリブランディングに際し、オルビスはHR戦略として「組織文化の変革」を最優先課題に位置付けた。
「人事部門の本質的な役割は『良いヒトを入れて、辞めてもらっては困るヒトをちゃんとリテンションする』ことです。しかし、少子高齢化で採用は難しくなり、転職が当たり前の時代で流動性も高まっています。この状況でリテンションの確度を高めるには、『組織文化』が鍵になるのです」(岡田氏)
なぜ組織文化なのか。岡田氏によれば、報酬や働き方など「良い条件」は他社からより良い条件が提示されれば人材は流出してしまう。一方、組織文化は一朝一夕でつくれず、長い時間をかけて紡がれる。そこにこそ、他社に対する優位性とリテンション効果があるという。

岡田氏は、「リテンションのベースはカルチャーマッチであり、だからこそどのような組織文化を築いていくかが重要になります」と強調しつつ、次のように続ける。
「どんな組織文化がよいかについて最適解はないと思います。新規事業創出が中心の企業ならチャレンジを重視する文化が、安定性が求められる業界なら堅実さを重視する文化が有効。その組織の事業特性や経営方針に合った『あるべき形』があるのです」(岡田氏)
さらに岡田氏は、組織文化の構築は経営戦略と切り離せないと強調する。
「経営戦略は、財務(カネ)、事業(モノ)、組織(ヒト)の3つの要素で構成され、これらは密接不可分です。ヒトの観点だけを独立して考えるのではなく、経営戦略全体の一部として捉える必要があります。
特に『ヒト』は、意志や感情を持つ変数の多いリソース。やる気次第で持てる力以上の力を出せる一方、やる気がなければ本来の力も発揮できません。ヒトのリソースを最大化させるのが人事部門のミッションであり、そのためには事業に必要な行動を引き出せる組織文化の構築が不可欠です」(岡田氏)
では組織文化はどのようにつくればよいのだろうか。