“痛み”を乗り越えて生まれた成果
オルビスが進めた組織文化の変革は、一朝一夕に実現したものではない。むしろ、改革の過程では多くの混乱や抵抗があったという。
「エンゲージメントスコアは一時的に下がり、事業と組織の方針を明確にしたことで、『難しい、合わない』と感じた社員が退職することもありました。こうした痛みを伴う変化は、本格的な組織変革には避けられないプロセスでした」(岡田氏)
組織文化の変革には、「過去の成功体験を手放すこと」が求められる。能力が高くても新たな価値観にフィットしないリーダーがいると、組織全体の変革スピードが鈍化してしまう。そのためオルビスでは、個人の能力だけでなく、組織全体に与える影響を重視したという。
これらの取り組みを継続することで、組織の変化は徐々に成果として表れた。エンゲージメントスコアはV字回復し、30代前半の若手管理職が増加。部門間のコラボレーションが活性化し、新商品の市場投入スピードも向上した。リブランディングの成功は、こうした組織内の変革があったからこそ実現したのだ。
「2018年に打ち出した方向性・戦略に対し、全員がベクトルをそろえて進んだことが大きかった。紆余曲折はあったものの、『全員で同じ方向に進む』という共通認識が浸透したことが、結果的にリブランディング成功の鍵になりました」(岡田氏)
また、コロナ禍では、オンライン・オフライン問わず「火曜日のお茶会」「木曜日の飲み会」といった社員同士の対話の場を設け、経営陣も積極的に参加。部門を超えたコミュニケーションの促進や社内リサーチの場として機能し、組織の一体感を醸成するきっかけとなった。こうした継続的な取り組みが、組織文化を確立するうえで重要な役割を果たしている。
「良いコンディション」だと言える組織に
あらためて、オルビスの事例から学べるのは、ブランド変革と組織変革は切り離せないということだ。企業の持続的な成長には、外向きのブランド刷新だけでなく、内側からの組織文化の進化が不可欠である。そのために重要なポイントは次の3点に集約される。
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- HRの本質は、良い人材の確保とリテンション
- 組織文化の変革は、単なる採用・評価の仕組みづくりではなく、「カルチャーマッチする人材をどう集め、どう育て、どう維持するか」が鍵になる。
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- 組織文化は事業戦略と一体で考える
- どんな組織文化が適切かは業種や経営方針によって異なる。ヒト・モノ・カネの戦略を連動させ、経営戦略の一環として組織文化を設計することが重要。
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- 行動の積み重ねによって文化を築く
- 組織文化は、管理されたりトップダウンで押し付けられたりするものではない。影響力のあるリーダーから行動を変え、その積み重ねによって醸成されていくもの。
「文化は1度つくったら終わりではなく、市場環境の変化に合わせて常にアップデートする必要があります。組織文化の改革は、『ひたすら継続すること』が何よりも大切です。今の組織が良いコンディションだからこそ、事業スピードも高められているのだと思います」(岡田氏)
これを受けて谷本氏は、「組織のコンディションが良いと言い切れるHRはとても少ないことを日々痛感している中で、オルビスのような企業がいることは私にとっても勇気になりました」とコメントし、セッションを締めくくった。