中小ベンチャー企業と大企業では組織運営の在り方が異なる。このことは、これまで経験則で語られてきたが、定量的にその差分を示したものはなかった。同調査では、従業員数と従業員エンゲージメントの関係を定量的に分析し、従業員数によって異なる組織運営の在り方を考察した。
同調査は、2015年1月~2019年7月に同社が提供するエンプロイーエンゲージメントサーベイを実施した649社に対して実施された。調査結果はエンプロイーエンゲージメントサーベイの結果から算出。同サーベイでは、人が組織に帰属する要因を16領域に分類したエンゲージメントファクターについて、各ファクターに設けられた4つずつの項目に対し期待度、満足度を5段階で回答。そこから「従業員エンゲージメントの偏差値」であるエンゲージメントスコア(以下、ES)を算出し、エンゲージメント・レーティング(以下、ER)として整理されている。
調査結果について、同社では次のように述べている。
- ①:従業員数が多いほど、従業員エンゲージメントは低くなりやすい
- (従業員数とES・ERの関係)
従業員数が1~100人、101~300人、301~1000人、1001人~の企業に分類し、各企業のES、ERの関係を示したものが表1、グラフ1である、表1、グラフ1の結果より、従業員数が多いほど、従業員エンゲージメントは低くなりやすいことが分かる。特に、ERがA~AAAの企業の比率は、従業員数が多いほど低くなっている。
- ②:従業員数が多いほど、従業員エンゲージメントを高めるためには、ミドルマネジャーが部下の意欲や個性を引き出すことが重要になる
- (従業員数が多いほどESとの相関が高くなるエンゲージメントファクター)
エンゲージメントファクター16領域のうち、従業員数ごとの、ESと相関が高い10位を表2に示す。従業員数が多いほど、直属上司の部下に対する「情報収集」とESとの相関は高くなる一方で、「情報提供」は相関が低くなる。「情報収集」には、部下の業務状況や個性、意思の把握などが項目として設定されている。「情報提供」には、部下に顧客ニーズや部署の目標、役割分担を伝えることなどが項目として設定されている。
この結果より、相対的に従業員数が多いほど、ミドルマネジャーが部下の意欲や個性を引き出すことが重要になると言える。
- ③-1:従業員数に関係なく、従業員エンゲージメント向上には、「全社的な連帯感」「メンバーの目標達成意欲」「戦略目標への納得感」など、従業員の統合に向けた働きかけが重要である。
- (<従業員数別>ESと相関が高い10項目)
エンゲージメントファクター16領域に紐づく64項目のうち、従業員数ごとの、ESと相関が高い10項目を表3に示す。従業員数に関係なく、「全社的な連帯感」「メンバーの目標達成意欲」「戦略目標への納得感」はESと高い相関を示している。この結果から、従業員数に関係なく、従業員エンゲージメント向上には、従業員を統合するための働きかけが重要になると考えられる。
- ③-2:「休日や就業時間」の満足度を高めても、従業員エンゲージメントはあまり高まらない
- (<従業員数別>ESと相関が低い10項目)
同様に、従業員数ごとの、ESと相関が低い10項目を表4に示す。従業員数に関係なく、「業界内での影響力」「財務状態の健全性」「話題性や知名度」「研修制度の充実度」「IT環境の充実度」「休日や就業時間」はESと低い相関を示している。中でも、働き方改革において重要な要素と考えられている「休日や就業時間」は、従業員数が多いほど相関はやや高まってはいるが、従業員エンゲージメント向上にはあまり寄与しないと言える。
最後に結論として、同社は 「従業員数が多いほど、従業員エンゲージメントを向上させることは難しい。複雑性や多様性を取り込み、従業員エンゲージメントを向上させる鍵は、部下の意欲や個性を引き出し、全体方針と統合することができるミドルマネジャーの育成にある」とまとめている。