イノベーティブな組織づくりに欠かせない従業員のエンゲージメント
――今、企業が「エンゲージメント」に注目する理由、すべき理由についてお聞かせください。
マクロ的な観点からは、やはり時代の要請が大きいと思います。先の見えない「VUCA」時代を乗り切るために、企業もまた組織のあり方を変えていくべきであると切実に捉えています。事実、米ギャラップによるエンゲージメント調査によると[1]、日本企業内のエンゲージメントの高い「熱意あふれる社員」の割合はわずか6%で、調査した139カ国中132位と最下位レベルでした。それはすなわち企業としての国際競争力の低下を如実に示しています。
これまで「オペレーションエクセレンス」といわれ、作った仕組みをミスなく効率よく回すことが競争力の源泉と考えられていましたが、現在では多少のミスはあったとしても、アイデアやクリエイティビティによって新しい価値を迅速に生み出すことのほうが重視されるようになりました。変化が激しい時代に生き残り、成長するためには、変化に強い組織の在り方が求められています。その指標となるのが「モチベーション」「従業員満足度」「エンゲージメント」の3点であり、最も重視すべきなのが「エンゲージメント」と考られているのだと思います。
なお、若干混同されている方もいるのですが、「従業員満足度」は会社側が与えるものに対する従業員の満足度を表し、「エンゲージメント」は従業員が仕事や会社に対する思い入れを表します。つまりベクトルは逆なんですね。給与や待遇が良くなればもちろん従業員満足度は上がるのですが、それだけでは「不満足ではない」状態です。満足度だけが上がっても、新しいものを作ろう、変えていこうという主体的な行動にはつながりにくいのです。むしろ「失敗はしない」という守りの姿勢が固定化される恐れもあります。もちろん業種や職種によってはイノベーションよりも確実なオペレーションが重視される場合もあるかもしれません。しかし、次世代に向けたイノベーティブな組織づくりには従業員満足度の担保だけでは難しいといえるでしょう。
――なるほど、そこでエンゲージメントが重要な要素として注目されているのですね。「エンゲージメント」がどのようにイノベーティブな組織づくりに関係するのでしょうか。
まず、エンゲージメントとは従業員自身が認識する“自分の状態”を示しています。活動水準が高く、それを心地よいものと認知している状態、つまり、やりがいを感じて生き生きと働いている状態は「エンゲージメントが高い」状態です。創意工夫や努力を伴って主体的に働くということであり、結果として提供価値や顧客の評価を高め、成果へとつながってきます。そうした主体性、熱意、活力などがエンゲージメントの構成要素であり、それがイノベーションを牽引する力になる可能性を秘めています。
そう考えると、従業員満足度が高くともエンゲージメントが低いときには、決められたことを決められたように行うだけ、いわば「ぬるま湯」のリラックスした状態であるといえるでしょう。エンゲージメントが高いときは主体性が発揮されており、心地よい緊張状態にあります。それは会社が従業員に媚びて実現できるものでも、従業員が会社に求めて与えてもらうものでもありません。あくまでお互いの関係性において、強い結びつきができているときにこそ存在しうるものなのです。
注
[1]: https://www.gallup.co.jp/204662/employee-engagement.aspx