今回の要旨
ストラテジック・ワークフォース・プランニング(以下、SWP)は日本と海外でその意味合いが大きく異なる。ジョブ型を前提とした海外では「人材の出入り」を中心にKPIを管理(採用パイプラインなど)するが、職能型を前提とする日本では人材の質(スキルなど)と量(労働生産性など)の両側面から多くのKPIを管理することが求められる。こういった背景から、昨今、日本においてもデジタルの力を活用して効率的なSWPを実現しようとする企業が増えている。
SWPのデジタル化によって企業が得られる果実は3つに大別される。
- ①複数システムに散在するデータの統合
- ②将来シミュレーションの実現
- ③データの正確性・タイムリー性の向上
業務がデジタル化する一方、それを使うヒトがついていけない場面が散見されるようになってきた点も見逃せない。「ヒトのDX」を推進するためには組織面・行動面からのチェンジが必要であり、ヒトがDXの足かせにならぬよう、取り組みを進める必要がある。
多くの日本企業が取り組む“SWP”とは?
SWPは一般的に「戦略的要員・人件費計画」と訳され、自社の事業目標達成に必要な人材の量・質を見定め、現状とのギャップを埋める一連の取り組みを意味する。当然、海外にもSWPという言葉は存在するが、日本のそれとは目的やモニタリングすべきKPIが異なる。具体的なイメージを持っていただけるよう、図1に代表的なKPI例を示す。
この図からも分かるように、海外では「人の出入り」を中心とした至ってシンプルなKPIをモニタリングすることが多い。「the right people, in the right place, at the right time, and at the right cost』(タイムリーに適切な仕事を適材へ割り当て、相応の報酬で処遇する)という考え方がベースにあり、いかに素早く自社の戦略的ポジションに人材を供給するか(事前に空席となるリスクに備えるか)がSWPの狙いとなる。
一方、日本では総要員数や管理職比率、労働生産性といったような、組織全体の要員構成と事業への価値提供度合いを量的観点からモニタリングする。加えて、時にはコンピテンシーやスキルの充足状況など、人材の質的観点をモニタリング対象とすることもある。日本では量・質ともにSWPのスコープとして捉えているわけだが、これは日本の解雇規制、および企業が古くから抱える年功序列・終身雇用の人材マネジメント習慣に起因するところが大きい。換言すれば、「人材をそう簡単に入れ替えることはできないのだから、できる限り再配置(リスキル)して有効活用しよう」というわけだ。そのため、日本におけるSWPでは有効活用ができているかを確認するKPIを多岐にわたって管理していくことになる[1]。
このような背景を受け、SWPの取り組みについてデジタルを活用して、より効率的かつ効果的に実現しようとする企業が増えている。
注
[1]: 要員数やコスト情報だけでなく管理スパン・管理職比率・直間比率や労働分配率などの生産性指標が重要となる。