パーソル総合研究所は、「賃金に関する調査」を実施し、その結果を発表した。同調査は、就業者の賃金に関する実態および、企業の経営層の賃上げに対する意識などについて、定量的なデータで把握し、経営・人事に資する提言を行うことを目的に実施した。
調査の概要と結果は以下のとおり。
昨年から今年にかけて賃金が増加した人の割合は、非正規雇用者より正規雇用者に多い
同調査は、全国の18~69歳で、2022年5月末現在、仕事から収入を得ている1万3745人を対象に行った(自営業者・フリーランスを除く)。このうち勤務先と雇用形態が変わらなかった人に、前年(2021年)に比べ賃金がどのように変化したかを聞いたところ、「増加」と回答した人が最も多いのは「正規の社員・職員(44.6%)」であった。また、「パート・アルバイト(33.5%)」「派遣社員(27.8%)」「契約・嘱託社員(30.3%)」の非正規雇用者に比べて、正規雇用者のほうが、賃金が増加した人の割合が多かった。
業種では、平均年収の高い「情報通信業」で賃金が増加した人の割合が多いのに対し、平均年収の低い「宿泊業、飲食サービス業」「生活関連サービス業、娯楽業」では賃金が増加した人の割合が少ない
業種別に、「平均年収」と「前年からの賃金増加者(賃金が増加した人)の比率」の分布を見ると、「情報通信業」は平均年収が高く、賃金が増加した人の割合も多い。一方、「宿泊業、飲食サービス業」と「生活関連サービス業、娯楽業」は平均年収が低く、賃金が増加した人の割合も少ない傾向にある。
職種では、平均年収の高い企画系の職種で賃金が増加した人の割合が多いのに対し、平均年収の低い「飲食・宿泊サービス」「配達・運搬・清掃・包装等」「一般事務・アシスタント」では賃金が増加した人の割合が少ない
職種別に、「平均年収」と「前年からの賃金増加者の比率」の分布を見ると、「経営企画」「商品企画・マーケティング」など企画系職種で平均年収が高く、賃金が増加した人の割合が多い傾向にある。一方で、「飲食・宿泊サービス」「配達・運搬・清掃・包装等」「一般事務・アシスタント」は平均年収が低く、賃金が増加した人の割合も少ない傾向にある。
非正規雇用者や正規雇用の低年収層に比べ、正規雇用の高年収層に賃金が増加した人が多い傾向
年収階層別に前年からの賃金の増減を見ると、「100~200万円未満」から「500~700万円未満」の年収階層において、正規雇用者では年収が高い層ほど賃金が増加した人の割合が多いのに対し(図表4)、非正規雇用者では年収が低い層ほど賃金が増加した人の割合が多かった(図表5)。正規雇用の高年収層は収入が伸びていく一方で、非正規雇用者や正規雇用の低収入層は収入が伸び悩む傾向を示している。
収入に対する満足度は、正規の社員・職員、パート・アルバイトは満足と不満が拮抗、
派遣社員、契約・嘱託社員は、不満が上回る傾向
収入に対する満足度は、「正規の社員・職員」では満足37.4%、不満37.0%、「パート・アルバイト」では満足35.0%、不満35.7%と、満足と不満が拮抗している。「派遣社員」と「契約・嘱託社員」では不満がそれぞれ46.6%、50.4%と不満が満足を上回り、「会社・団体の役員」では満足が53.7%と満足が不満を上回る。
世帯年収「700万円以上」と「300万円未満」で、最もギャップの大きい支出は「子供の教育費」
支出に関しては、世帯年収が高いほど支出は多い傾向にある。また、世帯年収700万円以上と300万円未満で最も支出額の差が大きかった費目は「子供の教育費」で、700万円以上の世帯は300万円未満の世帯の4.8倍支出している。収入のギャップが子供の教育に影響することを示唆している。
賃金が増加した層は、減少した層に比べ、「自己啓発・学習」「娯楽」に1.3倍の支出
賃金の増減別に支出を見ると、賃金が増加した人のほうが全般的に支出の多い傾向にある。特に、「自己啓発・学習費」と「娯楽費」で支出額の差が大きく、いずれも賃金が増加した人は減少した人の1.3倍の額を支出している。
「会社の成長なくして賃上げは難しい」と考える経営層は63.0%
ここからは企業の経営層530人に対し、賃上げに対する考えや状況を聞いた結果である。賃上げに関しては、企業の経営層の63.0%が「会社の成長なくして賃上げは難しい」と回答し、「賃上げなくして会社の成長は難しい」の6.4%を大きく上回った。一方で、「賃金アップは投資だ(38.1%)」は「賃金アップはコスト増だ(18.5%)」を20ポイントほど上回った。「賃上げには会社の成長が前提だが、成長への投資として賃上げも必要」と考える経営層の認識が読み取れる。
正規社員の雇用と賃上げを進める企業、非正規社員の雇用と賃金抑制を進める企業の二極化の動き
この数年の雇用実態と、今後の雇用意向ならびに賃上げへの姿勢について聞いたところ、これまで正規社員を増やしてきた企業は、今後も正規社員を増やす意向が強く(75.4%)(図表10上)、賃上げにも積極的(55.4%)(図表11上)である。一方、非正規社員を増やしてきた企業は、今後も非正規社員を増やす意向が強く(53.3%)(図表10下)、賃上げにも慎重(41.1%)(図表11下)であった。正規社員の雇用や賃上げを進める企業と、非正規社員の雇用や賃金抑制を進める企業とで、今後二極化していくことが示唆される。
賃上げの判断に最も影響するものは、「予算達成度や業績の良し悪し」
賃上げの判断に何が影響するかを聞いたところ、最も多かったのは「予算達成度や業績の良し悪し(40.6%)」であった。また、「物価動向(23.9%)」は、「景気動向(27.9%)」に次いで4番目に影響度の高い要素として挙げられた。「政府の要請(8.1%)」「経団連(3.0%)」「連合(1.0%)」の方針は影響度が低かった。
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