残業の減少が20代の成長機会を減らしている?
──まずは、大澤さんから「社員クチコミ白書」の概要と、「20代成長環境」が下降した理由として考えられることを教えていただけますか。
大澤陽樹氏(以下、大澤) 「OpenWork」には525万人のユーザーがいるのですが、企業で1年以上働いた方がクチコミを投稿いただけるようになっていまして、クチコミ数が累計1410万件あります(2022年12月時点)。クチコミを投稿する際のアンケートには、テキストで回答いただく定性的なものと、5段階評価で回答いただく定量的なものがあり、定量的なほうに「20代成長環境」があります。なお、回答は20代の方だけでなく、20代以外の方も行っています。
定量的な質問は8項目あり、そのうち「20代成長環境」以外の「待遇面の満足度」「社員の士気」「風通しの良さ」「社員の相互尊重」「人材の長期育成」「法令順守意識」「人事評価の適性感」は、この10年間ですべて改善していました。唯一「20代成長環境」だけが下がっている。これは驚くべき事実でした。
その背景として一つ考えられるのが、残業の減少です。データを見ても残業時間が減るにつれ、「20代成長環境」の点数が見事に減少しています。擬似相関の可能性もありますが。PCの強制シャットダウンのような、やや本質的ではない残業規制を行った結果、「もっと仕事がしたい」「もっと自分のスキルを高めたい」と思っても仕事ができない環境になっていることが影響しているのかもしれません。
曽和利光氏(以下、曽和) 働きやすくなったら成長面が下がるというのは、とても興味深いデータですよね。我々おじさん世代からすると、「やっぱりそういうこともあるだろうな」と思ってしまいます。
大澤 今の学生さんは、採用面接で「御社に入ると、どんなセカンドキャリアがありますか?」とふつうに質問するじゃないですか。転職を前提として就活をしていて、成長環境に対する期待値が上がり過ぎている。その結果、入社後に現実とのギャップが生まれ、スコアが下がっている可能性も考えられます。
曽和 多くの20代の人が「本当に力が付いているのか不安だ」と言っていますよね。成長に対して過敏になっているのでしょう。一方で、能力開発がうまくいっていない実態もあるのではないかと思います。
大澤 最近ではリモートワークの弊害で、先輩が働く姿を近くで見られず、直接教えてもらえないことも多い。そういうところから点数が下がっていることも考えられます。たまに「今の若手は昔ほど成長を求めていない」という話を聞きますが、データで見るとまったくそんなことはありません。
曽和 そうですね。ただ「成長して市場価値を上げないとまずい」という漠然とした焦燥感を持っているだけで、「じゃあどう成長したいのか」と聞いても、「いや、それは特にないです」という答えが返ってくる。具体的に何かしたいことがあるわけでもないのに成長したいというのは、どこか歪んでいるように感じますね。